2016年10月18日火曜日

母としての感慨

 
 
 
 
今朝は気温も高く、穏やかな日差しが和室の畳に差し込んでいる。
長女の結婚式まで、約半月ほどになった。
 
こんな衣替え日和は、次女に着せる振り袖の準備をするのに丁度いい。
 
タンスの奥にしまい込んだ次女が成人式に着た振り袖と帯を出してきた。
次女のためには黒地に桜の花が手鞠のように描かれた着物をあつらえ、
成人式の時と前撮りで家族揃って写真館で写真を撮った時の2回だけ着た。
 
その後も次女はキモノ好きなので、友達の結婚式に何度となく着物で出席したのに、
振り袖用の飾り結びを私が着付けてあげられないからと、
訪問着に二重太鼓の帯で済ませたので、
振り袖は、かわいそうなことに陽の目を見ることなく、10年の歳月が流れた。
 
次女にとって、
今回の長女の結婚式は、振り袖に袖を通す最後の機会になるだろう。
 
振り袖は未婚の女性しか着られないから。
そして、やはり演歌歌手でもない限り、20代の女の子のものだから。
 
久しぶりに出してきた振り袖は樟脳の香りがする。
衣桁にかけて障子の桟にかけると、
障子の向こうから柔らかな秋の日差しが差し込んでいる。
 
これを着た頃の次女の様子が、いろいろ思い出されてきた。
まだ、美大の大学生だった次女が、画材を抱えて、遠方のキャンパスまで通っていた
あの頃のことが・・・。
 
振り袖用の長襦袢は、淡いピンク色で桜の地模様が浮かび上がっている。
長い袖の縁には朱赤の裏が合わせてあり、いかにも若い娘らしい。
 
その襟に真新しい半襟をつけるため、しつけ針を打っているとき、
ふいに山口百恵の『秋桜』の歌が頭をよぎった。
 
あの歌は、嫁にいく娘が母との最後の日々をいとおしむ内容だったけど、
こうして次女の着る振り袖に半襟をかけている時間も、
同じように温かな気持ちになる。
 
思えばふたりの娘を産んでから、長い長い時間が流れた。
 
その時の流れの中で、娘のために振り袖をあつらえたり、
着付けや写真撮影のために大騒ぎした日は、今思えば、何と幸せなこと。
 
次女の人生の大きな節目を彩ってきた振り袖に、
最後の晴れ舞台がもうすぐやってくる。
 
この振り袖を身にまとって、
次女は姉の幸せを祈り、自分もお裾分けにあずかれますようにと願うことだろう。
 
母としては、娘達がそれぞれ佳い人生を歩んで欲しいと願うばかりだが、
こうして、娘のために半襟をかけられる時間こそ、幸せだと感じている。

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