神奈川県立音楽堂で行われた4回続きの
YAMATOの演奏会のうちの3回目に行ってきた。
この4回のコンサートには石田様LOVEの友人と
ふたりで申し込んでいたが、
コロナのことでいったん中止になり、
払い戻し手続きの後、また、延期日程が組まれ、
更に昼の部だけでなく夜の部もセットされと、
紆余曲折を見た。
その間、友人と私はどうするかやり取りし、
提示された延期日程の元と同じ時間、
元と同じ座席で鑑賞することにした。
しかし、やはり、二転三転主催者の事情が変わると、
聴きに行く方の事情も変わるもので、
1回目2回目は友人は聴きに来られず、
3回目の今回、
初めてふたり揃ってYAMATOを堪能することができた。
友人にとっても、
コンサートというライヴ感は久しぶりだったようで、
当たり前のように月に何度もコンサートに通っていた、
あれは本当に幸せなことだったと感慨深げであった。
3回目の会場は、1~2回目よりやや混んでいて、
座席の半数ぐらいは埋まっているようだ。
舞台には「会場会話禁止」の大きな看板が置かれ、
マスクの上にフェイスシールドを付けた係の女性が、
何人も会場を巡回して、
隙あらば注意するという態勢だ。
このコンサートのウリは
開演の1時間前には開場し、その30分後に
メンバーのひとり、
チェロの阪田宏彰さんが解説をつけてくれることだ。
飄々としたユーモアと深い考察力、
卓越した文章力で書かれたプログラムの文章も、
阪田さんの手になるもので、
毎回、手元に配られるプログラムで
私たちはベートーヴェンに関する知識を得ている。
阪田さんのプレトークは
プログラムに書かれている楽曲解説と
ベートーヴェンの人物解説の一番言いたい部分を、
分かりやすい口語で話してくれるという内容なので、
曲を聴く前に聴衆はイメージを創ることができるし、
理解の度も深まるという具合だ。
それにしても、
演奏家が曲を弾くにあたって、
そこまで作曲家の人間関係や人物像、出来事などを
研究するのかと、
私は毎回、驚いている。
例えば、絵描きの私が好きな作家の絵を鑑賞したり、
研究しようという時、
ピカソは何人の女性と結婚し、どこに住み、
どんな事件が起きて、どんな生活だったかなんて、
絵を鑑賞することとさほど関係ないと思っているが…。
しかし、作家側の視点で言えば、
確かにその時の生活や心理状態が作風を左右し、
どんなテーマで作品を創るかに関わってくる。
それと同じことが作曲家にも起こっていたわけで、
ベートーヴェンがこの曲を創った40代後半には
弟カールの死があり、その嫁や甥っ子との揉め事、
さかのぼれば、
ベートーヴェンの生い立ちにも関わることになる。
息子を金の卵とみた酒浸りの父親による執拗な要求、
虐待まがいの父親を見て見ぬふりの母親、
歪んだ愛情、満たされぬ幼少期の親子愛、
そして、やがて女性への変質的な執着と不信感へ。
心理カウンセラーとしては
実に興味深い面白い人物だと言える。
弟カールとその死、
妻ヨハンナにかけられた毒殺の嫌疑、
甥っ子カールをめぐる裁判など、
オペラの題材かと思うようなベートーヴェンの真実を
YAMATOのメンバー阪田さんが深掘りした上で、
分かりやすく解説してくれる。
曲の作られた背景をどう捉えて、演奏に生かしているのか、
演奏家が単に譜面をさらって練習に励んでいるのではないと
いうことを教えてくれる。
そのYAMATOのメンバーの
演奏家としての真摯さ・真面目さ・演奏にかける熱量を
このコンサートは垣間見せてくれるので嬉しい。
3回目の選曲は、ベートヴェンの管弦四重奏曲の中でも
難解な13番、大フーガ、15番だったので、
完全に意識障害に陥るかと思っていたが、
何とかくいついていけたのは、
事前のプログラムと阪田さんの解説があったらばこそと
言える。
それにしても、犯罪者ベートーヴェン、
狂気の人ベートーヴェン、
そんな人物でないとこうして後世に残るような名曲は
残せないのか。
「二人目の孫が生まれました~」とか、
「今流行りのニューボーンフォト、撮ってみました~」とか、
平和ボケのばぁばに
狂気が描かせた名画など創れるはずもなし。
薄々感じていた芸術家は不幸でないと。。。の真実を
ベートーヴェンに見た思いで、
しょぼくれるばぁばであった。
たぶん、YAMATOのメンバーも
自分が真面目過ぎること、
さして性欲の権化でもないこと、
ましてや犯罪者でもないことに悩みを深めているだろう。
それでも、演奏中、石田様の開きすぎの足と
高校なら即、呼び出しのツーブロックの新しいヘアスタイル、
ヴァイオリニストとしては異例のロックな感じで動く体、
押さえていない指が美しく立つ左手のフォルムに、
きゅんきゅんしながら、
「やっぱり好き!」と思った
ばぁばの平和な1日であった。
アンコールは
レッドツェッペリンの「カシミール」
どうだと言わんばかりのエロティックな演奏、
楽器と一体となった繊細、かつパッショネイトな音色。
犯罪者でなくてもいい。
そりゃ、そうだ。
ファンは皆、そう思ったに違いない。
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