2月の木版画のミッションは
2点のポインセチアの作品の試摺りと本摺りを
とることと決めていた。
2月初旬に最初の1点
シマエナガが出てくる小品を仕上げることが出来
この分ならもう1点も楽勝かと思っていたら
何だか他の予定が押し寄せてきて
遂に最終日にもつれ込んだ。
こちらの『青い鳥』の作品は
『シマエナガ』の作品に比べると大きいが
とはいえ60×60㎝の額に入れるつもりなので
そんなに大きな作品ではない。
実は試し摺りは10日近く前に出来ていたのだが
本摺りを決行する日程が取れず
本当に月末になってしまった。
2月は28日しかないので焦る。
昨日の27日、本摺りに備えて
絵具の調合と和紙の湿しを行い、
できれば夜に少しは手を付けるつもりだったが
午前中に1週間に1度の大買い出し、
夕方にカウンセリングがあったので
何だか疲れてしまって
ヤル気がでなかった。
その分、早く寝て
朝早く起きる作戦に変更し
5時に起床。
ひとり階下に降りてアトリエに籠った。
朝飯前に少し摺り始めることで
ちょっと気分が楽になるからだ。
2時間摺って、
ポインセチアの花びらの赤い部分と
蔦のグリーンのグラデーションを摺り終わった。
ここのところ、とにかく乾燥がひどくて
加湿器をガンガンにつけていても
和紙の周囲からどんどん水分が抜けていく。
そうなると和紙は縮むので
版がズレることになる。
そんなことになっては大ごとなので
霧吹きを小まめに足して
和紙の乾燥を防がなければならない。
来週の月曜から水曜までは
横浜も雨か雪の予報なので
湿度の点では来週に本摺りをもってくる方が
いいのは分かっているが
そうなると2月のミッションはクリアできない。
だれもそんなに急かしたりしていないけど
自分の計画通りに進めたい気持ちが
勝ってしまう。
朝食を作り、せかせかと7分ほどで食べて
また、アトリエに。
この調子でいけば、今日中には摺り上がるかなと
思っていた矢先の7時45分。
手元のスマホにメールがきた。
「こんな早い時間にだれ?」と思いながら
見ると、先週、当日ドタキャンした
クライエントさんからのカウンセリング依頼。
当日ドタキャンだったので
あまり心象はよくなかったけれど
「できれば、またカウンセリングを受けたい」
とあるので、
しかたなく都合を訊くメールを返信した。
すると「できれば今日は無理ですか」とメール。
ちょっと嫌な予感がした。
少し考え「夕方なら」と答えた。
心理カウンセリングを希望する人は
時折、思い詰めていたりするので、
できるだけ叶えてあげようとは思うものの
「本摺り終わるかな」と
相手には見えない手元の状況が心配だ。
「まあ、終わらなければ
続きは明日の午前中にやればいい」と考え、
とにかく2時45分までは
本摺りに集中することにした。
いくつかの仕事を掛け持ちしていると
こういうことは起こりうる。
そんな時、私は気持ちの切り替えと
優先順位のつけ方にメリハリつけて
目の前のことだけに集中することにしている。
結局、ぎりぎり摺り終えることができたので
作品にビニールシートをかぶせて寝かせ、
残りの確認作業と、あればリタッチ、
板に水張りする作業は
夜か明日に持ち越すことにした。
クライエントさんは思い詰めるというほど
ではなかったけど、
朝起きて仕事に行きたくない気分になったら
社会人として
とにかく断りの電話をしなければと
いう行動がとれなくなると訴えている。
大の大人が無断欠勤か…。
さっきまでの『青い鳥』はひとまず置いて
カウンセラーの顔になる。
結局、3月はすこし頻度高くセッションを
することにして
クライエントさんは
次回の予約をして帰っていった。
カウンセラーは「やりたくないよ~」とか
「行きたくないよ~」とは
言わせてもらえないので
せいぜい美味しいものを食べて
しっかり睡眠をとって、
健康な心身を保てるよう心がけることにする。
夜、シートをかぶせてあった作品を出して
摺りの確認をして水張りをした。
青い鳥のモデルは「ぶっぽうそう」なのだが
本当のぶっぽうそうとは少し違う羽根の色に
デザイン化してある。
くちばしにポインセチアを加え
空から降りてこようとしているので
「貴女へ」もしくは「あなたへ」という
タイトルにするつもり。
今日は急な予定に振り回されたけど
結果オーライにはなったので
頑張った自分を褒めてあげようと思う。
お疲れ!!
皆さんも何かしら日々のストレスを解消したり
ガタがきそうな部分をメンテナンスしたり
ご自分の体と心のケアには
気を遣っていらっしゃるとは思うが、
今日は私にとってのメンテナンスの日だった。
午前中は長く通っている整体に行って
1時間ゆっくりと体をほぐしてもらった。
ここでは体のメンテナンスをお願いしているが
私のブログ・ウォッチャーでもある先生と
3週間の出来事について
いろいろお話することも
私にとっては大事なメンテナンスだ。
ブログネタで取り上げた近況について
先生の感想を伺ったり、
私が詳しい補足説明をしたりすることで
何度も笑うことになるし、
自分の考えていることや感じていることを
外に出してお話することで
整理することができるのは
とてもリラックス効果がある。
整体で体と心を整えた後は
次は川崎に出て
友人と待ち合わせて
ランチとおしゃべり。
友人はブログにも度々登場していくれている
陶芸工房でご一緒のAさん。
目下、陶芸工房ではいろいろ問題が勃発して
先生と会員との間に齟齬があるので、
私達の活動についてや身の振り方など
おしゃべりしたいことは山積みだ。
それを美味しいイタリアンをいただきながら
大いにぶちまけることで
かなり憤懣やるかたない気分を
リフレッシュさせることが出来た。
美味しいものを食べること
同じ感覚の人と楽しくおしゃべりすること
これは誰にとっても
とても効果の高いメンテナンス方法だ。
しかし、難はひとつあって
ここの本格的な釜で焼くピッツァは
きのこたっぷり、チーズたっぷりの大判サイズ
パスタも1人前をシェアしたはずが
優に1人前はあるボリュームな上に
大量のオリーブオイル使用。
どちらもとても美味しかったけど
カロリーオーバーは免れない。
そこで、二人共カーブス会員なので
食事の後は
それぞれのカーブスに寄る準備も怠りなく
帰りには最寄りのカーブスでひと汗かく。
お腹がまだこなれているとは言えないけど
カーブスの後にランチをするよりは
ランチの後にカーブスに行く方が
メンテナンスという点ではいいので、
自分をだましだましマシーンを動かした。
これで体重の増減がプラマイゼロになって
いると信じて
本日の心身のメンテナンス終了。
最近は忙しい日々が続いていた上に
馴れないことに挑戦中で
脳みそがお疲れだったので
クライエントさんに常日頃伝えているように
意図的にストレスコーピングを
行った1日である。
こんな風に自分の現在の状況を観察して
必要なメンテナンスをしたり
ご褒美をあげることは
とても大切なケアなので、
時には自分を甘やかしたり、
褒め殺しにしたりしながら
上手に毎日を過ごしたいものだと思っている。
今日は年に数回ある陶芸の講習会。
今回のお題は『化粧泥によるいっちんと刷毛目』
『化粧泥』というのは
土で作陶し器の形ができたところで、
素焼きをする前にドロドロの土を使って
表情をつける技法があるのだが、
そのドロドロの土のことをいう。
私がここ数か月、シリーズ化して
さんざん何点も作ってきた化粧泥の作品は
『削り』と呼ばれるもの。
成形した赤土の器に
白の化粧泥をベタベタに塗り、
半乾きの状態で削りだすことで模様を描き
赤土の部分を出すという技法である。
今回の講習会で習った技法は
『いっちん』と呼ばれるスポイトで
化粧泥をボタボタたらす技法と、
『刷毛目』と呼ばれる刷毛で
ザッと刷毛目の表情をつける技法だ。
これらの技法は大正から昭和にかけて
民藝運動家として活躍した
河井寛次郎あたりがよく使った技法だ。
講習会の最初は
先生の民藝についての講話が延々と続いたが、
心の中で『いいから早く説明してくれ』と
思っていた。
今日の講習会の参加者は9名で
3人で1台の作業台を使うように
グループ分けされた。
私は共同購入で化粧泥を買った
同じ曜日で作陶している母娘との3人だった。
気心の知れた仲間との作業だったので
化粧泥の経験者としては
先生に代わって段取りを説明し
さっさと道具の準備をしたり、
フライング気味に刷毛で描き出したりしたので
きっと先生は「やれやれ」と
思っていたに違いない。
母娘は「私達、ラッキーチームでしたね」と
喜んでくれていたので、
お構いなしに作業はスイスイ進んだ。
本来なら2点の器の1点がいっちん、
もう1点が刷毛目の作品なのだが、
私だけ家からいっちんと刷毛目のブレンドで
デザイン画をおこして持ってきていたので、
これまた先生が注意する間もなく
勝手に進める私は
お手上げ状態という感じだった。
しかも、他の8名はこじんまりした器で
恐る恐る刷毛やスポイトを動かしているのに対し
私だけ巨大な大皿2枚を
あらかじめ前回の作陶日に作ってあったので、
あっという間に作業も終わり、
結局、先生からは何のコメントも無しだった。
後は3月下旬の釉がけの日に
他に作っていた8個の梅花の形の向付と共に
この大皿には
透明度の高い釉薬をかけるつもりだ。
久しぶりの大皿
最後まで割れたりひびが入ったり
歪んだりせず焼きあがりますように!
先生に啖呵をきって
好き勝手に作陶した分、
いい作品に仕上がって欲しいと願うばかりだ。
東銀座の東劇に
シネマ歌舞伎『阿古屋』を観に行ってきた。
この演目は
平成27年10月に歌舞伎座にかかったもので、
約10年前の舞台ということになる。
私は友人のつてで前から2番目中央の席で
当時、この舞台を観ており、
玉三郎渾身の女形姿を見届けたことになる。
『阿古屋』は女形で最も難しい役といわれていて
女形の役者にとってこの役ができることは
生涯の夢なんだそうな。
玉三郎は守田勘彌の養子になり、
幼い頃から女形に必要な踊りや
琴・三味線などの稽古に励んできたと思うが、
この役はそのすべての芸事の集大成、
舞台でお琴・三味線・胡弓を
弾かなければならない。
しかも、花魁の何十㎏もある衣装をつけ、
鬘をつけた状態でである。
筋書きはとてもシンプルで
役者も3人しか出てこない。
平家滅亡後、鎌倉の源氏方に追われる
平家の武将・景清のゆくえ詮議のため、
引き立てられた恋人の阿古屋。
「ゆくえは知らぬ」と答えると、
助役の宗連は気色ばみ、拷問をというが、
代官・重忠は偽りがあれば演奏の音色に
乱れがあるはずと
琴・三味線・胡弓の3曲を演奏させる。
しかし、阿古屋は見事な演奏を披露して見せ、
結局、開放される。
なので、舞台には
詮議する重忠
重忠の助役・宗連、人形ぶりで演じる悪役
演奏する阿古屋
の3人しかいないし、
3人ともほぼ同じところに座っている。
筋書きを知らない人や
言葉が理解できない人にとっては
「全然、分からなかった~」となるらしく
前の列のおばあちゃんたち4人も
隣の老夫婦もそんな反応だった。
しかし、私は歌舞伎座の本舞台を観ているし
踊りのお師匠さんで歌舞伎通の友人から
筋書きも聞いていたし
何より玉三郎のこの役に込めた思いを
知っていたので、
スクリーン上とはいえ、
再び、あの名演奏を観ることができ
大感激だった。
映画は1時間半程度だったが
前半にメーキング映像があり、
玉三郎の解説で
お稽古場の様子や大道具小道具
衣装さんや床山さんなど
陰で支えるメンバーや
総監督としての玉三郎の姿が見られ
歌舞伎座の舞台とは違う面が映し出されて
とても興味深かった。
幼い玉三郎は守田勘彌に
20歳になるまでに女形に必要な素養は
すべて身につけるよう言われていたとかで
女形のセリフ回しや所作はもちろん
踊り、お琴や謡、三味線のお稽古も
日夜、欠かさなかったという。
それを阿古屋では吹き替えなしの本番で
弾きこなさなければならないのだから
その辺の若手の女形には出来るはずもない。
今、齢70を過ぎた玉三郎には
阿古屋を演じられる後継者を育てる使命も
あるので、若手の女形の指導にも熱心だが
こうした芸事は一朝一夕にできることではない
ので、誰が受け継ぐことになるのやら。
玉三郎と同時代を生きてきた私にとって
玉三郎という不世出の女形を
16~17のデビュー当時から知っていることは
本当に幸せなことだと思っている。
年季の入った私の『推し』である。
何しろ、推している内に彼は
人間国宝にまでなってしまったのだから。
ちなみに10年前の重忠役は尾上菊之助
助役の宗連役は坂東亀三郎だった。
玉三郎の衣装は美術館にでも飾ってあるような
豪華絢爛で日本の工芸技術の粋を集めた
贅沢の極みだったが、
映画だとそれを手に取るようにアップで
観られたのも眼福であった。
もうあの大役を、この先、
玉三郎も1ヵ月公演で演ることはないだろう。
10年前、生で見られたこと、
10年後、スクリーン越しにアップで見られたこと
いずれも貴重な体験だったと思う。
それはそれは素晴らしい演奏だった。
『圧巻』という言葉がふさわしい。
亀井聖矢のピアノ
生聖矢君の演奏はこれで3回目。
彼はあまり演奏回数が多くない。
年に数回あるかないか。
1月初め、
私にとって今年初のコンサートが
神奈フィルをバックにした
服部百音のヴァイオリンと
亀井聖矢のピアノだった。
今日の演奏は
全編、神奈フィルをバックにした
亀井聖矢のピアノ演奏だった。
曲目は
フェルディナン・エロール
歌劇「ザンパ」序曲(管弦楽のみ)
フレデリック・ショパン
ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調 OP.11
カミーユ・サン=サーンス
ピアノ協奏曲 第5番「エジプト風」
へ長調 OP.103
とにかく言葉を失うほど素晴らしかったのは
サンサーンスの「エジプト風」だ。
初めて聴く曲だった。
サンサーンスが残した5曲のピアノ協奏曲の内の
最後の曲で
自身の演奏活動50周年の記念作品だとか。
エキゾチックな曲調なので「エジプト風」と
呼ばれているらしい。
曲調もさることながら、独奏ピアノの華麗な
超絶技巧がたっぷり楽しめる傑作と
プログラムにあったので、
期待していた。
しかし、その期待をはるかに超える
ピュアで美しいだけでなく
激しく魂を揺さぶるような演奏だった。
スラッとした長身
長い手足、甘いマスク
気負いのない演奏スタイルなので
本当に素直でいいとこの子という感じ。
表情でハッタリをかますようなところがなく
体中を使って演奏し、
ペダルを踏む右足はペダルに置かれているが
左足が常にリズムを刻んで
時に大きく跳ね上がったりもする。
「エジプト風」の後半の超絶技巧パートは
全身全霊で弾いて
会場中にその熱波が降り注ぐような演奏だった。
終わってみれば、
どよめくような拍手と
スタンディングオベーション。
私と友人も思わず立ち上がって
手を大きく上げて拍手し続けた。
なんという才能!!
なんという魅力的な演奏!!
興奮しすぎてそのまま帰るのが惜しいので
カフェに寄って
お茶をしてから帰ったほどだ。
きっと亀井聖矢はもっともっと
ビッグになって
そのうち手の届かない存在になるだろう。
こうして若き才能を見つけ
時代を共にして
彼の音楽を聴くことができた歓びが
今日の私を幸せにした。
そんな激しい演奏の後、
アンコールの独奏で弾いた
「ラ・カンパネラ」の
ささやくような甘やかなピアノの音が
今でも残像のように耳に残っている。