2020年5月9日土曜日

おうち陶器市






今まで作陶してきた器を見せてほしい、
そして、譲ってほしい。

そんなご要望を受けてから、
早2か月ほどが経った。

2度「今の時期はちょっと」と延期をし、
「やっぱりね」という感じで緊急事態宣言の延長があり、
押し切られた形だ。

外ではなかなか会えないので、
家の中に、器を並べ、
見ていただくことになった。

時節柄、断捨離のつもりもあって、
家じゅうの食器棚からサイドボードの中まで、
8年分の自作の器を出してみた。

すでに自家用として気に入って使っているものは別として、
単に眠っている器が、
ごっそり出てきた。

今は陶芸の工房も緊急事態宣言以降、
閉じており、
会員は作陶していないので、器がたまっておらず、
電気の窯が稼働していない。

だから、受注生産には応じられないとあらかじめお断りし、
ここに出してある分だけ
欲しければお譲りすることにした。

昼過ぎ、ほぼ同じエリアに住んでいる3人が、
自家用車に乗り、マスクをし、
珍しい種類の紫陽花の鉢と有名店のケーキの箱を携え、
やってきた。

会うのは2か月半ぶりか。
みんな、満面の笑みがマスクの中でこぼれる。
ここでハグしたいぐらいの感じだ。

花の好きな面々なので、
車から降りてくるなり、
我が家の小さな玄関アプローチの
咲き始めた薔薇の話、
終わりかけのエニシダとジャスミン、
裏手の満開のニオイバンマツリの話で、盛り上がった。

誰しもが誰かと好きな話題でおしゃべりしたいのだ。

「新しい生活様式」よろしく、まずは玄関先で
消毒液で手を清め、
家の中へといざなった。

中に入るのが2度目のふたりと初めてのひとり。
マスクをしながらも、
リビングの様子や並べた陶器の多さにびっくりしたらしく、
興奮気味に感想を述べてくれる。

「ほんとは来ちゃいけないのかもしれないけど」と
何度となく言いつつ、
誰もが気の合うメンバーと会いたい、おしゃべりしたい、
お茶したいという欲求がマックスなんだと分かる。

目を輝かして、陶器を並べた机にかじりつき、
それぞれお気に入りの器を選び、
裏の値段もろくに観ずに
ひとり15~20個の器をお買い上げ。

今は出歩かないし、お店もやっていないので、
洋服も買わないし、いい洋服を着る機会もないので、
「好きなもののお買い物」という時間が
とてもわくわくするのだと言う。

そりゃ、スーパーに食材だけを買いに行って、
「三密を避けろ」「レジは前の人と2メートル開けろ」
「3日に1度」「ひとりで行け」などと言われては、
楽しいショッピングというわけにはいかない。

面々は
「これは何を入れようかしら」
「これは何を入れるもの?」
「こんな風にお庭の花をちょっと活ければいいのね」などと、
実に楽しそうに、気になった器を手に取り、
イメージを膨らませている。

「何を入れてもいいんですよ」
「お料理だけじゃなく、お菓子でもいいと思うんです」
「それは魯山人風なんちゃって陶板といって
お茶のお菓子を載せるつもりで作りましたけど、
太巻き寿司なんかでもいいかなと…」
などと、作者の見解を述べつつ、
器を介して、話題は尽きない。

自宅で使うものの数には限界があるし、
ダンナは私の作ったものは好みじゃないので、
全部の普段使いを私の器にするわけにもいかない。

作ること自体が好きなので、
いつのまにか溜まった器は驚くほどの量だが、
こうして目を輝かせて欲しいと言ってくれる人がいることは
本当に幸せなことだ。

次回は残っている器を3人のうちのひとりのお宅に持っていき、
別の欲しがっているメンバーに
紹介しましょうと話が進んでいく。

この息苦しいコロナ自粛生活の中、
心が折れないように、
そろそろ安全な形で動き出したい。

みんな、そんな気持ちが爆発寸前なんだと感じた。

幸い、身近に感染した人がいないだけのことかもしれない。
コロナと戦っている医療従事者の悲惨さを
知らないだけなのかもしれない。

それでも、パチンコ屋に出かけるわけでもなし、
スーパーに家族で行くわけでもなし、
おうちで静かに楽しくお話するだけならと、
誰に言うともなく言い訳をしながら、
コロナ自粛の鬱屈した気持ちが抑えられないのだ。

知性も教養もある面々だが、
人は長い時間、孤独では生きられない。
自宅軟禁にも限度があるということだろう。

そういうことなんだな。
私だけじゃないんだな。
それを実感した楽しい楽しい時間だった。

夕方、
抱えきれないほどの器が入った紙袋を車に乗せ、
3人はにこにこ顔で帰っていった。

「早速、今晩、いただいたぐい飲みでお酒を飲むわ」
そう言って、
粛々とそれぞれの自粛生活に戻っていったのである。


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