2014年1月24日金曜日

母の黒留め


お正月に娘と私の女3人キモノを着てでかける初詣の際に
「若い頃着たえんじ色の紅型があったはずなのに、どこにいったのかしら」
という問題と
「そういえば、母の黒留め袖が見当たらないわ」
という私にとっては一大事の問題が勃発した。
 
その時はえんじ色の紅型はあきらめて、他のキモノを着せて初詣に行ったのだが
今朝、起き抜けになぜか急に、
「もしかしたら押し入れの隅のジュラルミンケースの中に入っているかもしれない」
そう、天の啓示のように思いついた。
 
ジュラルミンケースはここ10年以上開けた記憶がなく、もはや何を入れたのかも
思い出せないのだが・・・。
 
我が家のジュラルミンケースとは
海賊が引き揚げた宝箱みたいな重くて長い鍵付きの箱だが
ダンナが結婚した時に持ち込んだ物なので、はっきり言って私の管轄外なのである。
 
そして、朝食後、ケースの上に乗っているプラスチックの押し入れケースをどかし
ずりずりと引っ張り出し、鍵を開けると
なんとまあ、そこから見事にえんじ色の紅型と、母の黒留めが出てきたではないか。
 
母の黒留めは、30年近くも前に亡くなった母が、私の結婚式の時にあつらえて
1回だけ袖を通してそれきりになってしまったものである。
 
母亡き後に父が「あのキモノだけはお前が持っていって着てくれよ」と言い残し
父もその後数年で他界してしまったので、まるで遺言のようになってしまった
大切な品である。
 
とはいえ、当時、自分の娘はまだ幼稚園児で、その子の結婚式に自分が着るなど
想像もできない時代だったが、時は流れ、年齢的にはいつ着る時がきても
おかしくない年になってしまった。
 
悲しいかな具体的な予定はないが、その時が来て、あわてるのは嫌なので
あらかじめ心がけておこうと、今年にはいって思っていたのだが・・・。
 
いざ、出てきてみると、きっと有名な作家の手になるものらしいが
お神社の狛犬がモチーフで、あまりに迫力があって、
ちょっとその筋の人の女将さんかしらみたいな個性あふれる柄ゆきだ。
 
でも、両親にしてみれば、こんなに立派な黒留めは呉服屋稼業を長年していても
滅多にお目にかかれない上物だという思い入れがあったのかもしれない。
 
でなければ、わざわざ「あの黒留めだけはお前、着てくれよ」とは言わないだろう。
 
何しろ今の私の歳で母は亡くなったのだがら、遺志は継がなくてはなるまい。
 
と、思って眺めていると、10時前、母の親友だったおばあさまから電話があった。
「先日お話しした歌舞伎のチケット、2月18日に取れましたよ」という連絡だった。
 
歌舞伎に精通しているその方が、わざわざとある役者さんに頼んで
いいお席のチケットを取ってくださったのだ。
その方とは母亡き後に母のように慕って今日までおつきあいさせてもらっている。
おばあさまにとっても、娘がいないので娘代わりにかわいがってくださっている。
 
年に数回、お目にかかる時はなるべくキモノで出掛け、
そのキモノ姿を楽しみにしていてくださる。
 
朝、起き抜けに思いついて母の黒留めがひょっこり見つかり、
風にあてるため椅子の背にかけているところに
タイミングよくかかってきたおばあさまからの電話。
これはますますその機会が訪れたら、この黒留めを着なければなるまい。
 
今日はなんだか母をとても身近に感じた不思議な一日だった。
そして、キモノは代々受け継がれるものなのを思い出した日でもある。
 


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