2012年10月12日金曜日

一日女優体験

 
 
 

 
 
今日は待ちに待ったプロフィール撮影の日。
フラメンコの発表会のためにここ数ヶ月、髪にハサミを入れず伸ばしてきたし、
爪も珍しく少し伸ばしてネイルができる状態なので、
涼しくなったこの機会に着物で撮ってもらうことにした。
 
カメラマンは版画作品の撮影をお願いしたH氏だ。
氏とは新宿のスタジオで午後2時に落ち合うことになっていた。
 
それまでに私は着物を着付けて、家を出、日比谷のフォトスタジオで
撮影用のヘアメイクとメイクをお願いすることになっていた。
 
写真はライトを当てるので、相当濃いメイクが必要らしく
いつものメイクというわけにはいかないし、
ヘアスタイルもこの際、結い上げてもらって、華やかにしたい。
 
日比谷のフォトスタジオは、いわゆる写真館ではなく、どちらかというと
変身写真というか、宝塚風にしたいだとか、
デコルテを出して綺麗な色の布を巻き付けコサージュで留めてお姫様風といった
日常からは遠く離れ、女性の変身願望を叶えるといった写真を撮るのが目的の
フォトスタジオだ。
 
それでも、音楽家のプロフィール写真みたいなものも扱っているので、
今回はプロフィール用に使うと最初に伝え、
妙にセレブ奥様みたいにならないよう、かなり注文を出して、作ってもらった。
 
当然、写真撮影もあり、30代の若いカメラマンがテストプリントも含め
14~15枚の写真を撮ってくれ、何枚かは注文もしなければならない。
ポージングや表情の作り方がうまいと褒めてくれたので、
午後の本番にむけてのいい予行演習になった。
 
その場所から、このメイクで出歩くのは勇気がいるというような濃いメイクのまま、
地下鉄を乗り継ぎ、赤羽橋のスタジオに向かった。
少し早く着いたので、喫茶店のランチを食べながら、
つけまつげを取り、いつものアイメイクの濃いバージョンに作り直し、
口紅も自分のものに換え、ようやく気分が落ち着いた。
 
H氏も「自分らしいメイクにすることは大事」と言ってくださり、
いよいよ作家としてのプロフィール撮影が始まった。
 
全くのド素人がどの程度スタジオ撮影についてこられるのか、初めてなので
H氏はもちろん、当の本人さえ見当がつかない。
なので、「最初はモデルに注文はつけないから自由に少し動いてみて」と言われ
ややとまどいながらも、きもの雑紙のモデルのようにポーズをとった。
 
いつもの「ハイ、チーズ!」みたいな笑顔をしたら、
プロフィールはおすまし顔の方がいいと言われ、以後、すべておすまし顔で
250~270枚ぐらいは撮っただろうか。
 
ライティングを何度も何度も変化させ、正面、右向き左向き、
バストから上、手の先まで、全身、どアップなどと数10枚ごとに撮る範囲を変える。
ほんの少しの目の動きや位置で表情が変わるらしく、
ちょっとでも表情が硬くなると「はい、作り直してください」と声が飛ぶ。
 
だんだん、そうした微妙な差が写真の善し悪しを決めているのだと理解して
こちらも気持ちの入れ方を微妙に変えたり、目線を外してから戻したり
次第にプロのモデルのようになっていく。
 
1時間半の撮影の最後には
H氏が
「このライティングにもきっと耐えられると思うんで、ちょっとやってもいいかな」と
壁のすぐ前に私を立たせ、陰影の強く出るライティングを施し、
10何枚か撮って撮影は無事終了した。
 
「手を胸元に」と言われただけで、着物の合わせ目に手をポーズして沿わせたり
写っていなくても、下げた手も綺麗な形にと考えていたので
「よく分かっている」と褒めていただき、内心、有頂天。
 
終わってみれば、長い時間カメラを凝視していたせいで、ドライアイになり
コンタクトが眼球にくっついているのが分かる。
涙が涸れて、白目がバンパイアのように真っ赤だ。
 
着物のヒモも、髪を留めているあまたのピン、おろしたての草履など
ふと気づくとぐいぐい体や頭や足の甲に食い込んでいる気がする。
 
本当に身も心もへとへとに疲れて、
憧れの女優業もなかなかどうして辛いものだと思い知ったが、
さて、本日の写真撮影、
どんな「いい女」に仕上がってきますやら。
ドサッとデータとプリントが手元に届く日を、指折り数えて待つことにしよう。