2018年9月29日土曜日

台風のため天然忌中止

 
 
 
 
 
明日の日曜日に予定されていた『天然忌』のお茶のお稽古が、
台風のために中止になった。
 
台風24号が強い勢力を保ったまま、今は沖縄あたりにいて、
明日は確実に本州を北上する進路をとることが分かったからだ。
 
きっと雨は免れないだろうなとは思ったが、
夕べ、早々と中止の伝言メールが回ってきて、
ちょっとがっかりだ。
 
我がお社中における『天然忌』のお稽古は、
『天然忌』の茶とうの他にも、
七事式の『花月』と『且座』という普段のお稽古では全くしない内容が含まれ、
とても楽しみにしていた。
 
7名のお弟子さん達が参加するにあたり、
あらかじめ、それぞれの役どころが振りわけられており、
みんな、心密かに自分の役どころの予習をしていたに違いない。
 
『花月』は『花月百遍おぼろづき』と呼ばれるほど、難しいと聞いているし、
且座は半東のお役を頂戴しているので、
周囲を見渡して相当たくさん動き回らなければならない。
 
これはぶっつけ本番では恥をかくだけだ。
 
そこで、私も遂に、Amazonで検索して、
昭和61年に出版された2冊組の豪華テキストブックを購入し、
勉強するつもりだった。
 
この本が32年前に刊行され、
以来、もっと基本的な部分を写真と文で説明した
入門書などは出版されていて私も持っているのだが、
ここまで踏み込んだ内容のものは出ていない。
 
お茶の世界は旧弊なので、
ある一定以上の難しいお点前や決まりごとなどは、
一般の書店で手に入るような形で書籍化されたりはしないのだ。
 
私も海外転勤で真ん中が抜けているとはいえ、40年以上の茶歴があるが、
今日まで、書物からこうしたお点前を勉強したことはない。
 
しかし、昨年入門した先生のところでは、年に数回、
こうしたお免状もののお稽古をつけてくださると分かったので、
行って体験して、後からノートをとるだけでは間に合わないと感じ、
遂に検索して昔の本を注文することにしたというわけである。
 
昭和61年に2冊組で8800円だから、
相当な豪華本といえるだろう。
 
ちょうど天然忌中止のお知らせが、メールで届く少し前に、
宅急便で届いたその本はずっしり重く、ややかび臭かった。
 
中の写真にはつい先日息子さんに家元を譲られた先代の家元が、
たぶん40代後半か50代初めとおぼしき若々しいお姿で写っている。
 
この2冊組の持ち主は、さほどこの本を手に取りはしなかったか、
『長緒』というお仕服の項にピンクのマーカーが2~3本ひいてある以外は、
紙の折り跡すらない状態で、この本を30年間眠らせていたようだ。
 
それでも布で製本された表紙には、ポツポツとカビのようなシミが浮き出て、
経年劣化は否めないし、
中の写真の着物やヘアスタイルからは昭和の香りがプンプンする。
 
5000円ほどで手に入れることが出来、
縁あって我が手元にやってきた指南書を開いて、
明日行う予定だった自分の『役どころ』の所作を確認する。
 
頭の中でシミュレーションしながら、
昔のお茶人達が考案した茶道のお遊びに想いを馳せる。
 
台風で無しになってしまったけれど、
平成最後の夏の名残に、非日常の時間があったことを思い描いた。
 
古い本から立ちのぼるわずかなカビの匂いが、
かえって想像力をかき立て、
雅な世界へといざなってくれたのである。

2018年9月25日火曜日

9月10月の着物コーディネート

 
 
 
 
9月下旬と10月初旬に何回か着物を着る予定がある。
 
着物の世界では、9月と10月では全く季節が違うという考え方で、
昔から決まりごとがある。
 
関東に住んでいると、その辺の認識はかなり甘く、
暑いものは暑いんだから、
気温やお天気に合わせてきればいいという風潮だ。
 
しかし、京都やお茶の世界では、9月と10月でははっきり線引きがあり、
9月は単衣の着物に秋物の帯や小物、
しかも、きちんとしたお茶席なら、9月は無地か訪問着の単衣に袋帯。
 
10月は袷の着物(合わせのきもの)に秋冬物の帯ということになる。
 
ちょうど9月最後のお茶のお稽古が、明日、26日。
9月30日には「天然忌」のお茶事。
翌10月1日には、版画展のオープニングパーティと、
微妙に決まりごとが関係する日程で、着物を着ることになっている。
 
そんなわけで、今日は外は雨だし、
時間も出来たので、
ゆっくりタンスからあれこれ出して、
着物のコーディネートを楽しむことにした。
 
まず、明日のお茶のお稽古。
雨の予報で、気温も低いらしいが、
ベージュ色の小紋の単衣に、格子柄の名古屋帯。
 
名古屋帯は着物ではカジュアルだが、
お稽古とお茶事の雰囲気を変えるために、
名古屋帯でしかも格子柄をチョイス。
小物に色味を効かせて、パキッとした印象に。
 
次に30日日曜日『天然忌』のお茶事。
 
鳩羽グレーの単衣の無地の着物に、水紋柄の袋帯。
この時期の袋帯はあまり重たくなっては着物とのバランスが取れないというので、
ややソフトな生地に水紋という爽やかな柄ゆきだ。
 
もちろん袋帯だから、二重太鼓に締める格上の装いになる。
その分、着る側も胸が苦しいし、重たいが、仕方ない。
 
さて、問題はその次の10月1日、展覧会のオープニングパーティ。
 
版17版画展の初日で、夕方から、画廊でギャラリートークが行われる。
 
お茶事ではないから、着物の約束事みたいなしばりはないが、
画家のおじさん達とお客様の前で、
版17にまつわる自分史のようなものを語るにあたって、
ふさわしい装いとは・・・。
 
先取りで、白地に乱菊の柄の塩瀬の帯をどうしても身につけたい。
初おろしの金銀線描き模様の菊の柄を生かす着物はどれ?
 
そう考えながらタンスを物色すること15分。
 
結局、小豆色にホタル絞りが飛んでいる小紋か、
渋いグリーンの濃淡の立てぼかしの小紋かに絞られた。
 
お天気や気温、その日の気分にもよるので、
しばし、温めて考えることにした。
 
着物のコーディネートを考えるのは大好きな時間だけど、
9月と10月の狭間はいろいろ約束事があって難しい。
 
でもって、台風の進路によっては、
まだまだ予断を許さないらしいから、
天気予報とも相談ということで。
 
進路によっては着物なんてとんでもない・・・ということになるかも。
 
女心と秋の空。
 
臨機応変な対応力と、お茶の決めごとに翻弄される
平成昔乙女なのでした。

2018年9月17日月曜日

日本画展で濃茶点前

 
 
 
 
 
 
9月14日から開催の『越畑喜代美展』に行ってきた。
場所は銀座1丁目の柴田悦子画廊。
 
越畑喜代美さんは6月の紫陽花展の仲間で、かれこれ20年近いおつきあい。
彼女は日本画で私は木版画だが、
実は木版画は油絵より、より日本画に近いところがある。
 
越畑さんは年に数回、精力的に個展を開いているが、
その内、この時期は必ず柴田悦子画廊で『お茶会風味』という
サブタイトルをつけた展覧会を開いている。
 
その時だけはギャラリーに板を敷き詰め、靴を脱いで上がるスペースを設け、
更に奥の一画をお茶コーナーとして設営し、
会期中、お抹茶を点てたり、お香を聴いたりするという趣向の展覧会だ。
 
私は毎年、突然伺ってはお茶を点てさせてもらっている。
 
今年はFaceBookに柴田画廊の投稿があり、
棚ものの写真がアップされていたので、
思い立って、私は自分のお濃茶入れを持参し、
濃茶を点てさせていただくことにした。
 
画廊に日本画の作品を観にいらしたお客様をひっつかまえて、
(一応、皆、越畑さんのお客様で顔見知り)
お茶室のお客様をやってもらい、
濃茶とお薄を飲んでいただいた。
 
ギャラリーオーナーの柴田さんも、個展の主・越畑さんも濃茶を飲むのは
すごく久しぶりということで、
思いがけず甘く感じたり、奥深い味わいだったとかで、
とても喜んでもらった。
 
また、展覧会を訪ねてくる他のお客様は男女を問わず和菓子を携えており、
この展覧会でお抹茶が出るのを見越しての訪問という感じだ。
 
そのあたりが版画や油絵の展覧会にみえるお客様と違う。
こちらは洋物のクッキーかチョコレートが定番だ。
 
なので、日本画陣の迎える側も心得たもので、
日本茶を作家ものの器に煎れて、
各地の銘菓と共に出してくれる。
急須に金継ぎが施されていたりするあたり、さすが日本画専門画廊である。
 
茶道具もオーナーの持ち物で、曰くのありそうなものばかり。
裏千家なので、初めて拝見する棚が新鮮だった。
 
いつもは表千家の流儀に則り、
いかにも茶道という形式の枠内でお点前しているのだが、
たまにはこんな表と裏のブレンド流派だったり、
全くの素人さんのお客さんだったりするのも面白い。
 
本来、昔は訪ねてきてくれた友人に一服差し上げ、
会話を楽しむのがお茶なんだから、
いかにも「茶道でございます」みたいにしかつめらしくせず、
こんな風にお茶を介して楽しい時間を過ごすのが一番だ。
 
だんだん年を追うごとに、この時期は柴田画廊でお茶を点てるのが、
恒例になってきた。
 
『文学と版画』展が終わり、ちょっと一息ついたところで、
日本画を鑑賞しながらお茶を点てる。
『越畑喜代美展』はそんな夏の終わりの私のルーティーン行事だ。
 

2018年9月11日火曜日

『文学と版画』展 始まる

 
 
 
 
 
 
 
 
第4回『文学と版画』展が、銀座のギャルリー志門で始まった。
 
版画家が自分の好きな文学作品を1点選んで、
自分の作品を使って装丁を考え、
実際に本の表紙として作って、作品と同時に展示するという展覧会だ。
 
もちろんすでに出版されている書籍なわけだけど、
その装丁とは関係なく、
むしろ、自分の作った装丁の方がいいといわんばかりの力作が揃う。
 
今年の私が選んだのは
恩田陸の『蜜蜂と遠雷』
 
直木賞と本屋大賞を獲った作品なので、
読んだ人も多いと思うが、
私も一気呵成に読んだとても面白い作品だ。
 
内容はピアノコンクールに挑戦する若者達が、
1次予選、2次予選から本選へと進み、最後に優勝者が選ばれるまでを
克明に追っているというもの。
 
何人かの個性の違う演奏者の舞台裏やプライベートなどを書くことで、
曲の解釈や表現が違ってくること、
そのせいで、同じ課題曲がまるで違う曲のように感じられること。
 
私が知らないピアノ協奏曲とかでも、
その克明な描写で、まるで聴いているかのように感じられたこと。
 
その感動を自分の版画作品で表現するならと考えて創った作品だ。
 
本を見開くと、タイトルと背表紙の黒い帯が十字架のように見えるが、
これはピアノコンクールに命をかけて取り組む若者達が
背負っている十字架という意味も込めている。
 
本の装丁自体は先週の土曜日の飾り付けの日に、
私も初めて見たのだが、
ほとんど思った通りに出来上がっていて、嬉しかった。
 
その日に他の作家達の作品と装丁も見たのだが、
皆、装丁に創意工夫が感じられ、
「そうきたか!」というような驚きがあって楽しかった。
 
他の作家達も同じように感じたらしく、
誰もがこの展覧会の主旨を楽しみ、
1年間の宿題として持ち帰って、制作しているのが分かる。
 
まだ、4回目だけど、相当評判がいいらしく、
ギャラリーオーナーもこの企画展はギャラリーの看板企画に育てたい様子だ。
 
ほとんどの方にDMを出していないのだが、
もし、このブログを読んでいってみたいと思って頂けたなら、
GINZA SIXの2本裏の道、
香蘭社が角にある小径を新橋方向に行ったドラッグストアの隣のビルの3階だ。
 
 
お出掛け頂けたら嬉しいです。
 
よろしく~!
 
 

2018年9月7日金曜日

リベルタ KAMOMEラストライヴ

 
 
 

 
関内のライヴハウス「KAMOME」で行われたトリオ・リベルタの
ライヴコンサートに友人と行ってきた。
 
「KAMOME」が近日中に閉店になってしまうというので、
これは見逃すわけにはいかないと出掛けたのだが、
いずれリニューアルオープンするのかと思ったら、
完全閉店だという。
 
10年来、大家さんと音の問題で揉めて、
結局は存続できなくなったらしいが、
関内は昔からジャズハウスやこうしたライヴハウスの多い地区なので、
完全になくなってしまうというのはいかにも残念だ。
 
トリオ・リベルタのライヴは3日間4公演行われるが、
その内の2日目「ゆかたライヴ」と銘打たれた日を選んで
私達は行くことにした。
 
演奏者がゆかただからと、私も勇んで着物で出掛けたのだが、
会場にはチラホラ着物姿のお客さんもいて、
いつもとはだいぶ違う雰囲気だった。
 
整理券をとってくれている友人が、今回はとりわけ頑張ってくれて、
なんと「12」「13」番をゲットしてくれたので、
最前列右端の席を確保出来た。
 
いつもは壁際に並んだスツール席なので、
なんだか足が宙に浮いていて落ち着かないが、
最前列のソファ、しかも舞台ではなく同じ床面にアーティストもいるのだ。
 
更に彼らもゆかたを着ているわけだから、
胸元や腕、素足の足首や足の指まで目の前に見えていて、
ちょっとドギマギする。
 
出演者の3人は、私達が右寄りにいるので、
直ぐ目の前にサックスの松原さん、
その横にヴァイオリンの石田様、
その左、グランドピアノの奥に中岡さんが座っている。
 
お目当ての石田泰尚氏は譜面台を挟んで1メートル20ぐらいのところにいて、
私はソファを左斜めにして座っている。
ヴァイオリニストは右斜めになって楽器を弾くから、
結果、真正面に相対することになり、
演奏が始まると、音楽と石田様にお姫様抱っこされているような気分になった。
 
石田様をずっと見つめていると、
譜面台ごしに何度も目が合ったような気がする。
 
初めて見る石田様の生足がすぐそばにあって、
足指の爪の形まで分かり、
演奏中に下駄を脱いだり履いたりしていることまで見えているので、
何だかとにかく「生々しい」。
 
1部は「ラストタンゴ イン パリ」や「死刑台のエレベーター」など
映画音楽が中心で、リベルタならではの編曲がなされている。
石田様のヴァイオリンはもちろん、
松原さんのサックスのソロシーンもふんだんにあって楽しかった。
 
何しろ、1メートルの距離で松原さんはサックスを吹いているわけで、
ゆかただから尚のこと、その息づかいやお腹の揺れまで分かってしまい、
いかにも生演奏だ。
 
3人のゆかたは三人三様、
松原さんは紺にペンシルストライプの浴衣に淡いグレーの角帯。
中岡さんは明るいブルーの無地系ゆかたに柔らかい三尺でリボン結び。
 
石田様は紺の市松模様のゆかたに真っ赤な角帯で、
後ろの結び目を真ん中ではなく右端によせて結んでいる。
しかも頭の角刈りにそり込みが入っているので、どうみても、その道の人だ。
 
会場の60名ほどのお客さんは
そのほとんどが石田ファンなので、
いつもの黒づくめのスーツ姿から一転、肌も露わなゆかた姿に
ざわついているのが分かる。
 
常連のお客さんの顔もだんだん分かってきているが、
(それだけ私達も通ってきているということだが)
常連さんで着物の人はいないので、
自分でいうのも何だが、私の着物姿は目立っていたと思う。
 
2部は待ってましたのピアソラ特集。
耳なじんだ曲から、
何かのピアソラアルバム全12曲の内の8曲みたいな新しい選曲もあって
盛りだくさんだ。
 
今日の3人はゆかたといういつもとは違ういでたちだったせいか、
ライヴハウスということで最初からアルコールが入っていたせいか、
とにかくノリノリで、
いわゆるコンサートホールの舞台とは違う親近感の中、
私達は楽しい演奏を堪能した。
 
本日の名演奏は
1部の最後の「シェルブールの雨傘」と
2部の最後のピアソラの「タンガータ」だったが、
アンコールにも3曲応え、
やっぱり最後の最後は「リベル・タンゴ」だった。
 
トリオ・リベルタはリベル・タンゴからとって名付けられており、
リベルとは自由という意味だ。
3人で自由に音楽を楽しもうというコンセプトでこのトリオは結成されたという。
 
音楽が好きで、ピアソラが好きで、
音楽で遊んだり、ライヴを楽しむのが好きな3人が、
とりわけ遊んでいるゆかたライヴを、
同じフロア上の目の前で体感出来、
「あ~、私は今、この時に生きているんだな」と思った。
 
夏フェスに行った若者が会場一体となって熱狂する、
あの感じがギュッとコンパクトになって、狭い一部屋にいて、
みんな側で体温を感じている。
 
そんな生々しい夜だった。
 
あ~、生きているって素晴らしい!
あ~、音楽って心地よい!