2015年8月20日木曜日

ミューズ降臨

 
 
毎日寝苦しく、昨日もいったん寝付いたのに、夜中の2時頃目が覚めたら
そのまま眠れなくなってしまった。
 
クーラーは27度にセットされ、一晩中ついているけど、
その低いモーター音が耳障りだし、
こんなに毎晩冷房をつけっぱなしにして、どんな高額の電気代の請求がくるのか
そんな心配も頭をよぎる。
 
目をつぶり、左へ右へと何度となく寝返りをうち、
日中あったことをつらつら思い出したり、
人との会話を反芻したり、
これから先、やらなければならないことを思い浮かべたりしていた。
 
そんな時、11月に作品を出品しないかという要請がきていたグループ展のことを
思い出した。
 
田園調布にある新しい画廊が展示場所で、
2年前、オープニングパーティに行った折り、あまりに豪華で
いかにも田園調布の真ん中にあるという画廊らしからぬ構えに驚いた。
 
「銀杏の会」展が、そこに展示場所を移して3回目の今年、
幹事さんから「今年は音楽をテーマに創った作品で出品を」という案内が届いた。
 
新作でも旧作でもかまわないから、とにかく、何か音楽にインスパイヤーされて
創った作品を出品しなさいということらしい。
 
そう言われて、あれこれ思い浮かべたが、ここ数年、
そうした経緯で創った作品が自作に見当たらない。
 
しかし、5年ぐらい前、フラメンコを習っていた時に、
フラメンコ専用のスペインの椅子に大きな水玉のストールが掛けられ、
椅子の足元にフラメンコ用のシューズが置いてあるという
作品を創ったことを思いだした。
 
「やや旧作だが、それを出品すればいいか」と考え、まずは
出品か否かを知らせるハガキの出品に丸をつけ、意向を伝える返事を出した。
 
ところが、ハガキを出した翌日、その作品のサイズをあらためて測ったところ、
額をつけると出品規定より縦のサイズが10㎝近くオーバーすることが判明。
 
横幅は規定内に収まるから、壁を人より大きく使うことは無いので
隣近所に迷惑はかからない。
「なんとかお目こぼしを・・・」などと考えていた。
 
本当なら5年前の作品なんかじゃなく、
11月までに新作を創れればそれが一番いい。
「でもねえ、音楽をテーマねえ・・・。どうする?困ったわね・・・」
と、夕べも寝ながらうつらうつら考えていた。
 
すると半分寝ぼけた脳裏に、
ふいに「アルゼンチンタンゴ」という言葉と「ピアソラ」という言葉が浮かび、
1ヶ月ぐらい前に舞台で見た
タンゴを踊る赤いドレスの女性と黒いスーツの男性が
息がかかるほどの至近距離に密着し、ポーズを決めている映像が写った。
 
あの赤いドレス・・・。
あれを赤いグロリオサの花を使って表現したい。
と、そう思った瞬間、
風切るように踊るその風が渦巻きになり、
そこに赤いグロリオサと白黒のグロリアサが絡んでいる図が浮かんだ。
 
ほぼ最終の絵柄として脳裏に描かれた瞬間、
私は「これでいける」と確信した。
 
目をつむり、ベッドにウダウダころがっていた体をガバッと起こし、
そこら辺のレポート用紙とボールペンをひっつかみ、
ざっと今脳裏に浮かんだアイデアを描き留めた。
 
重要な色と形のキーポイントは言葉にして、注を入れ、
ホッとしたせいか、
またベッドに横になり、明け方少しだけ眠りにつくことが出来た。
 
こんな風に眠れなくてもがいている時、
ふいにミューズが降りてきて、新作のヒントをくれたり、
最終の形を映像で映し出してくれることが時々ある。
 
それを描き留めないで寝てしまうと、
起きた時に「何だったっけなぁ・・・」ということになるが、
今回みたいにとにかくラフスケッチでもいいからメモしておけば、
思い出して、そのまま、新作の原画作成に取りかかれる。
 
今回はグロリオサの季節ではないので、
モデルにする花を手に入れられないこともあり、
イメージが鮮明な内に早速、原画作成に取りかかった。
 
制作期間の猶予は2ヶ月。
それだけあれば、中ぐらいの作品には十分だ。
 
夏の夜は
暑いし、汗かくし、それでいて足首は冷えるし、クーラーの調整が難しいしで、
眠れないことが多い。
 
けれど、そんな寝苦しい夜にミューズが降りてきて微笑んでくれると
夏の夜の寝苦しさもまた、ありがたい時間になる。
私にとって、それはサンタのプレゼントより嬉しい。
 
ただし、辛くても寝ぼけ眼で起き上がり、ラフスケッチに留めなければ、
それは単に「真夏の夜の夢」になってしまうのだ。


0 件のコメント:

コメントを投稿