2016年3月19日土曜日

もうひとつの顔 Beeの石田泰尚

 
3月はなんと3回も石田泰尚氏のコンサートに足を運んでしまった。
 
1回目は13日の「三浦一馬スペシャルライブ」のメンバーとして。
2回目は14日の石田様プロデュース「兵士の物語」 バレエとオーケストラ。
3回目の今日は及川浩治トリオ「Bee」のメンバーとして。
 
つまり、ヴァイオリニストとして、誰かと一緒に演奏する時、
相手によってどのように変わるのか、とても興味深い3回のコンサートだった。
 
1回目はバンドネオンの三浦一馬の名前が冠についているが、
5人編成のタンゴ演奏としては、それぞれがリスペクトしていて、
情熱的ないい舞台にしようという思いがガンガン伝わってくるコンサートだった。
 
2回目はミニオーケストラとバレエという珍しい組み合わせの舞台で、
石田様はプロデューサーとしても斬新なアイデアを盛り込み、
踊りと語りと演奏のすべてを、同時に目の前で見せる舞台はとても新鮮だった。
 
3回目の今日はトリオで行うコンサートだから、さして珍しい形態ではないし、
以前にも少しメンバーが入れ替わっているが、
Beeのコンサートは聴いたことがある。
 
しかし、久しぶりにこのトリオの演奏を聴き、
出だしの個性のぶつかり合いには最初ビックリした。
 
ピアノの及川浩治は唯我独尊、確かにうまいが、これでもかという強い音で弾いて
ちょっと協調性に欠ける。
最初の2曲はヴァイオリンもチェロもよく聞こえないほど。
 
ヴァイオリンの石田様は体も顔も細いが、音色も繊細かつ華麗で見た目どおり。
まさにアーティストと呼ぶにふさわしい孤高の人。
 
チェロの辻本玲は体も顔も丸い典型的なふとっちょおじさん。
でも、顔に似ずロマンティストらしく、演奏中はずっと切なくて物狂おしい表情だ。
 
今日はそんな3人を横須賀藝術劇場 大ホールの最前列、中央から2つ右という
とんでもないかぶりつき席で聴いたというより、見てしまった。
 
真ん前にチェロの辻本さんが2メートルぐらいの距離にいて、
石田様は斜め左手に3メートルぐらい先。
でも、譜面代がななめに置いてあるので、私が左上を見上げると、顔は正面にくる。
石田様が譜面を見る瞬間にちょくちょく目が合う恰好になり、
「あら、もしかして、私のこと見た?」と勝手な思い込みができる位置だ。
 
もっと目の前には手の届く位置に辻本さんが切なくも狂おしい顔をして
ゆさゆさ大きな体を揺らせてチェロを弾いているし、
舞台中央にはすっかり自分の世界に入り込んでいるナルシストの及川さんが
気持ちよさそうにスタインウェイのピアノをオーバーアクションでかき鳴らしている。
 
あまりに近くで、
3人の男性の息づかいと曲調に合わせたそれぞれの切ない表情を見ていると、
不謹慎な想像をしてしまいそうになり、
恐ろしい。
 
演奏された曲目はピアソラあり、プッチーニあり、リストあり、
メンデルスゾーンにラフマニノフ、ベートーベンと
それぞれの楽器のソロやデュオ、トリオとバラエティ豊かに組み合わされていて
聞き応え十分。
 
最初の2曲でガンガン飛ばしすぎたと自重したのか2部のトリオ演奏は
ピアノと弦楽器の音色も調和して、
それぞれの持ち味を存分に活かした演奏になった。
 
帰りがけ、一緒にいった友人とも
「プロとはいえ、最初はさぐりさぐりやってる部分もあって、徐々に調和するように
なるんだね、きっと」と同じ感想を語りあった。
 
演奏家は幼少期から英才教育で育てられ、
高価な自分の名器が何より大切で、自己愛の強い性格の人が多いと聞いている。
 
たぶん、この3人もそういう意味では自己愛人間なのは間違いない。
 
そんな演奏家達が相手に合わせたり、自己主張したりしながら、
いい演奏になるため奮闘する様は、
間近で見れば見るほど人間臭く、いとおしささえ感じるのだった。
 
生の演奏を見たり、聴いたりする醍醐味、
それはそういうところにあるのだろう。
 


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