2019年9月3日火曜日

第5回 文学と版画展

 
 
 
 
 
 
 
 
 
昨日から、第5回「文学と版画展」が始まった。
場所は銀座6丁目のギャルリー志門。
 
この企画展のコンセプトは、版画家が選んだ本の装丁を
自分の作品を使って考え、
実際に本の表紙を制作し、本にかぶせ、
版画作品と本を同時に展示するというもの。
 
だから、壁の作品の下に小さな棚が設置され、
そこにそれぞれの本が並ぶ。
 
画廊の展示ではこんな風景は珍しいので、
展覧会としてとても面白いし、ファンもたくさんついている、
ギャラリーオーナー自慢の企画展である。
 
先週の土曜日の夕方から、作品の場所決めと棚作りという
大工仕事を含むめんどくさい飾り付けがあり、
明けた週の月曜日から土曜日までという
6日間の会期である。
 
オープニングパーティにはおおかたの作家が集い、
集まったお客様の前で、
自分の作品について、ひとりずつ話すという時間がある。
 
そこで、なぜ、この本を選んだか、
自分の作品とどのようにリンクさせたかのかなどが話され、
各人の思いや考えを知ることができ、
とても興味深い。
 
毎年、誰かの詩集や、
哲学的な内容のもの、
童話、
昔の名著と言われるものなどが、
素材に選ばれる中、
私は「大人の恋物語」みたいなジャンルから本を選んできた。
 
今回は極めつけで、
高橋治の「紺青の鈴」
 
金沢の伝統的な九谷焼の窯元の娘が、
大学教授の新進気鋭の陶芸作家と恋に落ちるという物語。
 
主人公は男に会いに行く時、
着物を着て、
最後、青い九谷焼の鈴の根付けを帯に付ける。
 
そこに込められた意図と思い。
 
昭和60年に刊行された当時、
読んだ私は自分の経験した恋愛と酷似している内容に驚いたものだ。
 
そんな思い入れのある作品の装丁だったので、
オープニングパーティには
もちろん着物を着、
根付けには水琴窟の音がする銀色の鈴を選んで
身につけた。
 
ただ、話すより、実際に着物を着て、
根付けをつけていた方がイメージしやすいと思ったからだ。
 
初めて私の着物姿を見たメンバー達はこぞって褒めてくれ、
他の方達とは全く違う本のチョイスと
作品イメージの私への理解を深めてもらえたのではないだろうか。
 
実はこのグループ展にははっきりした派閥が存在して、
自分は異端の徒であるという感触がぬぐえないかったが、
作家はあくまで徒党を組まず、個であることを再認識し、
このスタイルを貫こうと思った一夜だった。
 
私の隣の作品を創った男性が
派閥の長であるが、
そのすぐ隣に私の作品が展示されることを
快く思わなかった子分達も、
昨日で「しょうがない」と思ったかもしれない。
 
世間の思惑や風当たりを感じたとしても、
自分の立ち姿をしかと保とうと、
両足を踏みしめ直したところである。

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