2023年3月29日水曜日

新作本摺り「わすれもの」

 






















WBCの興奮冷めやらぬ内に
自分を律して、本日は本摺り決行。

前回、本摺りをした3部作の続きで、
今回は真ん中に旧式のポストがある。

旧式とばかり思っていたが、
鎌倉市は未だ、このポストが現役で使われており
ノスタルジックな作品かと思っていたら、
そうでもないことが分かった。

数日前に試摺りはとってあり、
ポストは当然のように朱赤に描かれている。
(写真途中の2枚横並びの左側が試摺り)

固定概念とは恐ろしいもので、
どうしても真っ赤なポストの色に合わせて
他の色を決めてしまっていた。

しかし、本摺りに至って、尚、
多少の違和感があったので、
ポスト部分は後回しにして
まずは雨から摺ることにした。

この2点の作品の共通部分は雨なので、
そこが同じ版なのに、
こんなに違う印象の作品ができるよという
実証実験みたいなことが
今回のコンセプトなので、
共通部分の雨の色は変えるつもりがない。

ただ、1作目には傘を差した男の子が
登場しているので、
傘に関係のある部分の雨だけは短く、
今回のポスト付近に降る雨とは
長さが異なる。

その部分だけ、別の版が出来ているので、
まずはその部分の摺りからスタート。
次に先日摺った全体の雨の版を摺ることで、
今回の雨の全体像の出来上がり。

こうして最小限の版の変更で
2点分の雨が出来たことになる。

次に摺ったのは紫陽花の花と葉っぱ。
これは赤いポストが生きるように
試摺りの段階で
完全なモノトーンにすることにした。

ここまでで
雨と紫陽花だけでもいけそうなぐらい
なかなかに美しい。
(はい、いつもの自画自賛)

その次は水たまり。
水たまりは雨に使った「空」という色を
グレイッシュにした濃淡にしたので、
色数が増えていないので、
まとまりがいい。

多色摺りの版画の場合、
色合わせと共に
使用する色数をどのくらいにするかは
とても大切な要素で、
多ければいいというものでもない。

次は空のパート。
ここは「古代紫」という渋い紫を
グレイッシュにした濃淡にしたので、
こちらも雨に使用した「アイリス」という紫と
同系列なので、
しなやかにまとまっている。

なぜ、ここまで来てポストを
摺らないでいるかというと、
実は本摺りの日だというのに、
ポストを朱赤にするか迷っているからだ。

ポスト以外の色を摺ることで、
きっとポストの色が見えてくる。
固定概念を捨てて、ポストを赤くしなくても
日本人の脳内では「ポストは赤」と
処理するようにできているのだ。

ここで、コーヒーブレイクをいれ、
画面を眺めている内に
朱赤ではなくもっと渋い「弁柄」や
「金茶」のような茶系統の赤の方が
他の色との組み合わせがいいと
閃いた。

急遽、試摺りも取らずに
その場で色を変更し、
全体に渋い茶系の赤いポストのしてみた。

ここまでくると、
自分の色感だけが頼みなので、
答えは決まっていないのだが、
今回はこの渋いポストの色で
正解だと思っている。

この作品の原画を起こして以来、
どこか絵本のような感じで、
自分の作風としては子どもっぽいかなと
危惧していたが、
ポストを渋い赤にすることで
子供っぽさからも脱却できたのではと
思っている。

これで1作目は紙の白をかなり残した
状態で良しとする作品が出来上がった。

次回、
2点目は背景の版はすでに彫ってあるので、
背景を摺って色の入った作品を
作るつもりだ。

あと2点つくるのか1点でやめるのかは
まだ未定だが、
1度、版を洗って、頭をリセットしてから
新たな気持ちで一から考えようと思う。

『木版画の特性を生かし
同じ版でもイメージの違う作品ができる』

実験的試み第4弾は
5枚摺り上げ、筆を置くことにした。








































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