武蔵小杉の小杉画廊というところで行われていた
「上野しゅう木版画展」に
着物を着て出かけた。
特に個展に着物でいく必要はなかったのだが
数日前、
地元のデパートの催事で
ついうっかり求めてしまった着物と帯。
「できれば着ているところを見せて」と言われ、
その言葉を真に受け
見せびらかすついでに着物で個展に行くことにした。
写真の中で一緒に写っている着物の女性と
黒いスーツを着ている女性は
その催事で担当してくれた二人だ。
着物の催事にはくれぐれも注意しないと
『きもの沼』という沼に足を取られる危険があり、
気を引き締めて臨んだつもりなのだが…。
催事場のカレンダー売り場の隣で行われていた
「きもの」の展示会場に一足踏み入れた瞬間に
目に飛び込んできた美しい黒い帯。
黒地に並木のような銀色の木の模様に
キラキラと舞い降りる雪。
よく見ると天使がひとり。
ティンカーベルのような可愛い姿をしている。
あからさまにクリスマスの絵柄ではなく
サンタもトナカイもそりもないが、
季節は小雪舞う12月を思わせる。
思わず足を止め見ていると
若い店員さんが
「その帯、素敵ですよね」と声をかけてきた。
「私達も昨日、展示していて、これ素敵と
みんなで噂していたところなんです」という。
そして、帯からすぐ先の訪問着コーナーにあった
白からグレーにかけてのグラデーションで
花織の地模様が美しい訪問着。
広げてみると前身頃に上品なかえでの縫い取り。
帯を衣桁から外し、
着物と並べて見ていると
次に着物の女性が声をかけてきた。
「ちょっと着てみませんか」と。
いざなわれるまま畳にあがり、
気が付くと『きもの沼』にはまっていたという訳。
こうなると、この病につける薬はない。
(知ってる)
今年は脳の手術があったりして
夏中一度も着物には袖を通さず、
静かに暮らしていたのに、
いつ『きもの沼症候群』に罹っていたのか。
しかし、手に取った着物と帯からは
自分の持っている帯締めや帯揚げにコート、
果ては水琴窟の音がする帯飾りまでが
ピンと来て
すぐに自分の着姿が脳裏に浮かんだ。
夢遊病者のように催事場で会計を済ませ、
家でカレンダーを覗き込んで
催事中に着物を着ていけそうな場所を探し
今日の上野さんの個展に着てくことにした。
案の定、上野さんは会うなり目を見張り
「着物で来てくれたの、ありがとう」と言った。
優しい上野さん。
上野さんは大学の大先輩。
同じ版画の団体に所属する木版画家だ。
以前は版17という同じグループ展に所属し
年に2~3回はお酒を飲む仲だったけど、
そのグループ展が解散してからは
めったにお目にかかれなくなっている。
80代の半ばにさしかかり、
数年前に大腸がんの手術をなさったというのに
大きな作品をたくさん出品していて
とても凄いと思った。
先週、自分も大きな作品の本摺りに
四苦八苦したばかりなので、
同じ木版画家としての摺りの工夫の話や
病気の後の筋肉量が落ちた時の制作秘話などを
聴かせてもらって
同じ木版画家として
大いに話が盛り上がった。
私よりひと回り以上ご高齢でも
制作意欲は衰えず、
身体のありこちの不調とも折り合いをつけ
出来る制作方法で描き続ける姿に
とても力をもらった。
木版画は彫りも摺りも力仕事なのだが、
腕や足腰の筋肉が落ちて力が入らない時は
パステル画を描いていたそうな。
自分も6月に「硬膜下血腫」になり、
この夏は術後だったので、
ひたすら彫りをしていた話をした。
ちょうど人のこない昼餉時だったので、
画廊の方の差し入れのカツサンドを
いただきながら
作家同士、同窓生同志の気分で
たくさんおしゃべりすることが出来た。
最近は、自分は版画家の世界から遠のいて
カウンセラーやらカーブスに通うおばちゃんに
なっていたが、
同業者との会話で版画家モードを
刺激された気がする。
また、気合を入れ直して、
11月はもう1点の大作の摺りに向かって
突っ走ろうと思う。
やはり、版画もきものも
褒めて伸びるタイプの萩原である。

















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