毎年11月3日、文化の日に行われる
パティシエ学校の文化祭。
連続で10回近く来ていると思うが、
さすがに晴れの特異日、
今年の文化の日も気持ちの良い秋晴れだった。
朝9時半前には学園の前で非常勤講師の友人と
待ち合わせ、
先に来た人が列に並び、着いた人が合流する。
今年はラッピングや冠婚葬祭の規則などを
教えている友人とそのまた友人2人と私の4人。
友人はそろそろリタイアを考えているので
次にバトンを渡す2人に
授業のアシスタントを頼んだり、
学園祭に一緒に来て徐々に講師になる準備を
してもらっている。
例年は10時の開始早々に1階のレストランで
食事をするのが常だったが、
今年は毎年長蛇の列をなす5階のパンの販売から
攻略することになった。
5階につくと早くも少し列はできていて
パン専攻の学生が
「先生~、おススメはごろごろポテトの何とかと
お月見仕立てのカレーパンです~」というので
可愛いポップの書かれたショーウィンドを見上げ
順番が来るまでにどれにするか決めた。
最近、グルテンフリーだか何だかしらないが
ブクブク太ったのをパンのせいにしたり、
パンは腎臓に悪いから食べないとかいう
おじさんが我が家にひとりいるせいで、
パンの消費量が減っているにも関わらず、
気づけば各種菓子パン4個、フランスパン、
練り込みチョコの食パンを注文していた。
そこから、1階のレストランに行き、
丁度満席になってしまったタイミングで
お食事の列に並んでいると
この春に卒業してホテルに就職が決まった
3人連れの男の子たちが入ってきた。
友人Tさんに気づいたS君が手を振った。
S君の隣には
私が一番可愛がっていたM君の姿があった。
私と目が合うと、思いがけない再会に
照れくさそうにしながら笑顔を見せた。
印象に残る優秀な成績だった2人だ。
S君は横浜ニューグランドホテル。
M君はニューオータニ。
働き始めて半年。
今どうしているんだろう。
3人で学園祭に来たということは
仕事も順調で、
友人関係も続いているということか。
彼らはエレベーターで最上階まで行き、
私たちは手の込んだ評判のランチを
いただいた。
私は魚介のパイ包みクリームソースがメインの
お魚プレートのセットにした。
他の3人は牛肉とマッシュポテトが層に
なっているお肉料理。
それを1200円で提供しているので
毎年、長蛇の列。
しかも非常勤講師にはお食事券がつくので
タダで食べられるとあって
30分待ちの列もなんくるないさ~
パンをしこたま買って、
ランチをゆっくり食べたところで
ようやく人心地つき、
学生たちの作品展示を観ることにした。
学生たちはスーツ姿であちこちにいて
それぞれの係を担当している。
何人かの学生が駆け寄ってきて
「私、あの後、内定決まりました」と報告。
最後の授業の時に
「学園祭には伺うので、見かけたら声かけてね。
その間に内定取れた人は教えてね」と言って
あったので、
「先生~」と言われるととても嬉しい。
その学生たちの作品が賞をとっていたりすると
もっと嬉しい。
そんな風にパティシエコースの作品ブースで
観ていた時、
黒いコートを着たM君が
ひとりで作品を観ている私を見つけて
寄ってきてくれた。
ニューオータニに就職したM君だ。
就活時にかなり個人的に相談にのって
自己PR文と志望動機を手直しした。
打てば響くタイプで
かなり深くパティシエという職業について
考えていて、自己紹介の時に
「世界一のパティシエになる」と大風呂敷を
広げられ、驚かされた学生だ。
ニコニコしながら近づいてきたかと思ったら
「僕、今、トゥールジャルダン東京に配属に
なったんです」と報告してくれた。
トゥールジャルダンは
ニューオータニグループの最高峰レストラン。
ニューオータニで働く人の憧れの部署だ。
そこで、フルコースの最後のデセールという
一皿ごとに提供されるスイーツを
創っているという。
それはパティシエを目指す人の
ひとつの憧れのポジションだ。
彼は3人組、私は4人組で行動していたが
すっかり教え子との再会に舞い上がり、
いつしかふたりきりで話し込んでいた。
自分の誕生日に
ポール・ボキューズでディナーした時の
デセールの写真を見せながら
スマホをスクロール中に
一緒に出てきた木版の作品も説明した。
M君は私が就職対策講座の講師だと思っていたら
藝大卒の木版画の作家だと知って
ますます興味が湧いた様子だった。
講師は個人的に学生と接触してはいけない
規則なので、
個人情報を聞き出すことは出来なかったけど、
一番のお気に入りの学生が
この後、トゥールジャルダンのスーシェフに
なったりしたらいいなぁとうっとりする。
(ちなみにM君との写真は今年の謝恩会)
もうこれは気分としては
講師と学生の一線を越えている。
スマホの画面を2人で覗き込みながら
他の人が入り込めない空気を出していたのだろう。
「先に5階に並んでいるね」とTさんが言い、
その部屋を出ていった。
ドラマだったらもうちょっと怪しい展開が
待っていたかもしれないが、
結局、素に戻った私は
「じゃあ、頑張ってね」などと
ありきたりのひとことをかけ、
私達も別れてしまった。
あの時
「来年、個展があるけど観にくる」とか
何とか言って
LINE交換しておけばよかったと思ったが、
後の祭りである。
最後に、5階の和菓子の学生達のブースで
抹茶と生菓子のセットをいただき、
持ち帰り用の和菓子セットも購入し、
今年の学園祭巡りは終了。
学生が言うがまま
こんなにパンや和菓子を買い込んで
ダイエットはどこへ行ったのか。
意外とまだ自分は先生業なんだなと実感した。


























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