2025年11月15日土曜日

対作品『表裏一体』の本摺り

 



























対の作品として創った2点の作品の
2点目の本摺りに漕ぎつけた。

11月に入ってから試し摺りをとって
本摺りのためのイメージを構築してきたが、
前回のブログにもあるように、
試し摺りといっても数日かかった。

まず、ひと通りの色を置いてみて、
版の作り忘れやズレなどがないか
形のおかしい部分がないかチェックする。

次に足りない部分や気に入らない彫りがあれば
作り直したり、手直しする。
今回は鴨の版を作り直した。

更に版調整といって
汚れがつきそうな部分やトラブルを起こしそうな
部分の彫りを完璧にするところまでが
試し摺りだ。

その際、乾いた時の絵具の色引けの注意点や
もっと濃くとか薄くとかの指示の他、
絵具の名称が決まったら版木に直接書き込む。
もちろん作品ごとに和紙の色見本帳も作っている。

それらの資料に基づいて
本摺り用に予定を空け、このサイズだと
丸3日間は本摺りに取り組めるようにする。

そんなわけで今回の作品は
今週の木・金・土の3日間で
本摺りを決行することにした。
そのためには火曜日には絵具の調合をし
水曜日には和紙の湿しを行う必要があった。

そんな風に何日にもわたって準備すると
絵具や和紙が本摺りの時まで乾かないように
絵具にラップをしたり、
和紙にしっかり重しをかけた上に
ビニールのテーブルクロスをかけたりする。

今回は4枚の和紙を湿したのだが、
90×90㎝の紙を扱うのは
いちいち動きが大きくなるので
それだけでもかなりの体力がいる。

そのせいか、水曜日の午後のお茶のお稽古に
着物ででかけようとしたら、
午前中の和紙湿しで疲れたせいか
駅前で心臓がバクバクなってしまい、
やむなくお稽古に行くことを断念して
急遽、タクシーで自宅に戻った。

もし着物姿で駅前で倒れたりして
救急車に乗るようなことになったら
和紙を湿したのに本摺りを取りやめるしかない。
そうなると大量に作った絵具も廃棄か?

この際、事の優先順位と自分の体力を考え、
趣味のお稽古ごとはあきらめるしかなかった。

木曜日、
何とか普段通りの気分で朝を迎えたので
「ゆっくり、ゆっくり、無理せずに」と
自分で自分に声をかけつつ、
最初の雨のパートを摺り始めた。

絵具の鉢の写真を見るとわかる通り
雨だけでも5色の絵具を使っている。

今回アップした26枚の写真は
まるで「脳のアハ体験」のように
前の写真と次の写真と
どこが違うのかと思われるだろう。

例えば、雨だけのものの次には
雨の合間に花びらや花芯が見える。
これはたとえ同じ版に彫ってあっても
2回に分けて摺っているということを意味する。

つまり、雨と花びらを同時に絵具をのせると
時間がかかり過ぎて絵具の乾燥がおきたり
目配り気配りができずにミスをする可能性が
あると思うので、分けて摺っているのだ。

そんな調子でなるべく白っぽいもの
なるべく後ろにあるものの順に
絵具が悪さをしないような順番で
摺っていく。

雨と花びらの次には下半分の水場と
背景の「皮鉄」という濃紺を摺った。
その次は脇の濃い空色。
そのまた次は
下半分の三角の背景に「落葉茶」という焦茶色。

こんな風に紙のどこかだけに偏らないよう
上半分の次は下半分を摺る。
和紙がばれんの圧で多少は伸びるので
伸びが均一になることにも留意している。

アハ体験が進むにつれ
案外、ここで辞めたら美しいと思える時が
訪れるが
試し摺りでは許されても
本摺りでは許されないので
とにかくすべての版を
ミスなく摺り終わることが重要だ。

これで版木としては2枚半。
面としては両面なので5面。
見当の1組で1版と数えるので
版数としては25版ほどある。
色数としては30色くらいか。

版は版木の四方のいろいろな所から
とっているので、
1面に4~5版くらいあることになる。

5面目の版木は
対のもうひとつの作品と共用なので
版木の上が大渋滞になっていて、
包装紙で隠して摺りたい所だけ出す作業が
想像以上にめんどくさい。

しかし、それに手を抜くと
必要のない部分が変な所に摺れたり、
和紙を合わせる見当を間違えたりして
大事故が起きてしまう。

事故と言えば、
前回は霧吹きで水を撒きすぎて
途中で一部の絵具が泣き出し
4枚で始めたのに1枚途中で破り捨てるという
悲しい事件があった。

今回は同じ轍は踏まないよう
最低限の霧吹きにしつつも
和紙の乾燥だけは回避しなければと
気を遣った。
しかも、天気がよく乾燥も進んでいたので
部屋のシャッターは全部閉めて
加湿器の量もMAXである。

こうして
3日間も正座したり、バレンで摺ったり
立ち上がって和紙の場所を入れ替えたりで
体力も限界、
脳みそも限界に達した気がするが、
何とか4枚の作品が最後まで摺りあがった。

一度、途中で摺りのミスをすると
心理的ダメージが大きく
自分を責めて引きずってしまうので
浅田真央ではないが
「ノーミスで滑り切ることが何より大切」

どこの世界もプロの世界は厳しい。

昨日の大の里は
友人曰くの「鬼のように強く」
平戸海が軽く吹き飛ばされていたし、
今日の大の里は身長差20㎝もある宇良に
低く低く攻め込まれ
一時は懐に入られたけど、上手ひねりで
退け無傷の7連勝。

今場所の大の里は
どうにも負ける感じがしない。

テレビで観ている大の里は
1日の内のほんの数分だけど、
あの強さの裏には
日々のたゆまぬ努力があるに違いない。

試し摺りも本摺りも
そんなに大変なのかと思うかもしれないが
そうやって出来た作品が
額に入って「スッ」とした顔で
飾られていたらカッコいいと思うのだ。

さて、8月から
体重を落とそうと思って3か月半。
カーブスにも通い込んだし
試し摺りと本摺りもあったしで、
4㎏のダイエットに成功した。

今日は久しぶりにビールを飲んで
自分を褒めてあげることにしよう。
お疲れ!!






















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