2018年10月14日日曜日

『日日是好日』を味わう

 
 


昨日から始まった樹木希林と黒木華主演の『日日是好日』を観に行った。
 
表千家茶道の先生のところに入門した著者・森下典子の体験談をまとめた本の
映画化だ。
 
典子役は黒木華。
武田先生役は樹木希林。
 
舞台のほとんどは武田先生のお宅のお茶室で、
入門したての20歳の典子と親戚の美智子が、
割り稽古といって、初めてお茶を習う人が覚えるふくささばきや
茶巾のたたみ方を見よう見まねでやってみるところから映画は始まる。
 
実はこの映画のお茶の流儀は表千家なので、私も同じだ。
しかも、入門したのも典子と同じ大学生の時なので、
映画を観ながら、一挙に当時のことが思い出された。
 
自分の場合は、着物着たさと、200年以上の伝統美に憧れての入門だったが、
典子はご近所のただ者ではない風情の武田さんが、お茶の先生と知って、
母親のススメと美智子の「一緒にやろうよ」の言葉に
背中を押されての入門だった。
 
最初は非日常の空間に身を置き、
観るもの聞くものすべてが初めてでキョロキョロしているが、
理屈で考えたり、頭で理解しようとせずに、
お稽古に数、通って、何度も所作を繰り返す内に、
ふと何かが身につき、自然に手が動くようになる。
 
年月を経て、
その間に主人公の典子は若い女性として、苦い想いや後悔もいくつかした。
周囲をとりまく人達も変化した。
 
季節は移ろい、春が来て桜が咲き、
そして、散った後には風薫る五月。
6月ともなれば、雨が降り、うっとうしい毎日が続く。
暑い夏を凌いだ後には、秋が訪れ、
木々の葉が赤く染まり、風がひんやりしたことに気づく。
やがて、冬が到来し、茶室の窓ガラスの向こうにしんしんと降る雪が、
庭に積もっていく。
 
四季の移ろいの中で、
当たり前のことや小さなことがしみじみと感じられ、
どんな季節も味わい深く、愛おしく思う。
 
お茶のお稽古に励む内に、
典子が気づいた『日日是好日』
どんな日も良き日という意味に、気づけた喜びがひたひたと伝わって来る。
 
樹木希林は、昨年秋にこの映画を収録していたとき
確実に自分の死を意識していたと思う。
 
そして、死にゆくことを受け止め、飲み込み、
味わっていたのではないだろうか。
 
幸い、この武田先生という役のセリフを借りて、
「人生とはこういうもの」ということを残された私達に発信出来、
最後にいい役ができたと喜んでいる気がした。
 
「私は自分を使い切って死にたい」と言っていたそうだが、
正にこの役で上手に使い切ったのではないか、
そんな風に感じた。
 
封切り2日目とあって、
駅前の映画館の1番大きな会場はほぼ満席、
老若男女入り交じっていたけど、
上映中の100分はしわぶきひとつない静かな時間が過ぎていった。
 
お茶を知っている人も知らない人もいただろうけど、
みんな映画の茶道の世界に引き込まれ、
耳を澄ませ、心を開いて、何かを感じ取ろうとしていたのかもしれない。
 
私としては、自分が40年来好きで続けているお茶のお稽古を、
改めてやってきてよかったと思ったし、
私にとってこれからも必要なものだと確認出来た。
 
ひたすらお茶を点てるシーンばかりでつまらない映画だと思う人は思う人、
 
疑似体験でもいいから、
この映画の中で、一緒にお茶室に身を置き、一服のお茶を点て、
また、人の点てたお茶をいただくとき、
利休の『一期一会』の意味を想い、
日日を丁寧に生きなければと感じてもらえれば、この映画の本望だろう。
 
あの映画館の静けさは
それぞれがそんな映画のメッセージを味わっているようだった。
 
私も毎日の出来事、刻々と変わる季節、
嬉しかったり悲しかったり、怒ったり笑ったりのすべてを受け入れ、
楽しみ、
噛みしめて味わいながら生きていこうと思う。
 
 
 
 


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