2023年6月9日金曜日

茶杓の銘は旅路から

 








月に3回のお茶のお稽古。

ドレスコードは一応、着物ということなので
大雨が降ったり、
午前中にカウンセリングの仕事が入ったり
しない限り、着物で行くことにしている。

着物には季節に応じたルールがあり、
6月は単衣の着物に夏の帯、
7~8月は着物が絽や紗といった夏ものになる。

昨今は温暖化の影響で
5月のゴールデンウィークが終わったら
早くも単衣にするという風潮もあるが、
お茶のお稽古場の空気としては
比較的、昔ながらのしきたりに従うことが
多いと感じるので、
私も6月に入るのを待って
6月1回目のお稽古から
単衣の着物を着ることにした。

真面目か!(笑)

そして、もうひとつ、
我がお茶のお教室ならではの季節ものがある。

それは「お茶杓のご銘」を、季節に応じ
自分で考えるということだ。

私にとって、
今の北鎌倉のY先生は4人目の先生だが、
毎回「茶杓の銘を自分で考える方式」は
初めてのことだったので
最初はかなり面食らった。

何しろ、6年半前にこちらに通い出した時、
最初に購入したものは
「歳時記」だったのをよく覚えている。

お茶のお道具は、先生が季節を考慮の上、
毎月、すべての道具組ががらりと変わる。

それは茶杓といって
お抹茶をすくう竹のスプーン?もしかり。

元々、銘の付いた茶杓を出してくださる時も
あるし、12本一組のセットで求められた茶杓が
用意されていることもある。

大抵は12本一組の茶杓なので、
お稽古に通う弟子たちは
事前に茶杓の銘を何にするか思案しながら
お稽古場に向かうのが常だ。

6月のご銘といえば、
毎年、出てくるのが「紫陽花」に関するもの。
「紫陽花」とまんまでご銘にすることもあるが、
「よひら」「七変化」などとひとひねり
した方がおしゃれな感じだ。

「雨宿り」「霧雨」など雨関連もいい。

お茶のお稽古は、そのお稽古場に入門した順で
お点前をすることになっている。
4人いる水曜日組のメンバーの中で
私は2番手だ。

今回は1番古株のUさんが1番手に
割り振られたので、
2番目に古い私は
2番手のお点前ということになる。

お濃茶のお点前の最後には「拝見」といって
お茶入れと茶杓とお仕覆を拝見に出し、
お客さん役が見終わったら、
お点前をした人が
それぞれのご銘や形についてお答えするという
問答がある。
その時に自分で考えてきた
茶杓の銘を「○○」でございますと
いうことになる。

そこで、私は
「覚々斎の写しで水鏡でございます」と答えた。
(覚々斎は表千家6代目の家元で6月だから
6代目の名前を覚えるためにこの名を拝借)

すかさずお客さん役のUさんから
「水鏡って何ですか」と声がかかった。

「水鏡とは田植えが終わったばかりの水田の水に
まわりの空や野山が映っている様をいいます」
と私。

「あら、素敵ですね」とUさん。

それを受けて、
「先週行ってきた白川郷では、田植えのイベントが
ちょうど行った日の午前中に行われたようで、
絣のモンペに茜だすきの娘さんが菅笠かぶって
一列に並んで田植えをしている映像を
夜のローカルニュースでやっていました。

私が白川郷に着いたのは午後だったので、
そのイベントを直接見たわけではないですが、
田んぼの水に空や合掌造りの家々が映っていて
いい風景だなと思いまして」と私。

こんな会話が取り交わされた。

3番手のお点前さんは次に入門したNさん。

同じく拝見でお茶杓のご銘を言う段になり
「早乙女です」と言ったとたん、
4番手のKさんが隣でくずおれた。

自分の番になったら言おうと思っていた
「早乙女」を
Nさんに先を越されてしまったからだ。

「早乙女」とは
先の話に出てきた田植えをする若い女性のこと。

Nさんは2番手の私とUさんとのやり取りを
聴いて、
「これは次は早乙女にしよう」と思ったとか。
それは期せずしてKさんも同じだったため、
Kさんが残念がってくずおれたというわけだ。

となると、残るはご銘はひとつ
「早苗」しかない。
私とKさんは顔を見合わせた。

はたして4番手にお点前をしたKさんは
拝見の段で
「「早苗」という銘でございます」と
答えるしかない。

旅路の途中で観た風景に着想して
考えた茶杓のご銘が
旅の思い出と共にお茶室の話題となり、
そこに居たメンバーが話の続きを
引き取る形で別のご銘を考えてつける。

なんと優雅な時間。
なんと美しい日本の伝統。
なんと知的なお遊び。

お茶のお稽古は日常とはかけ離れた
異空間だということを再認識し、
あくせくとした日常からトリップし、
こうした時間に身を置く幸せを実感した。

ついに関東地方も梅雨入りだ。
次回のお稽古は
雨の季節を言の葉にのせようかな
なんてつらつらと思う雨の1日。











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