2026年9月15日火曜日

作品にご自身の物語を紡いで

 









2週間に渡る個展の会期中には
本当に多くのお客様に来場いただいた。

あらかじめ300枚以上のDM(案内状)を
お送りし、
画廊側からも300枚出ているが
実際に会場に足を運んでいただけるのは
その一部にすぎない。

自分自身、銀座は本当に遠くなって
以前のように気軽にいく場所ではなくなっている。
それは他の友人知人にとっても同じこと。
まして連日の雨模様では尚更である。

そんな中、銀座まで足を運んでくださったのは
いつもの生活で仲良くしている方、
お世話になっている方、
昔、どこかのタイミングで同級生だった方、
長年の知り合いで個展には必ず来てくださる方、
この度、初めて声をかけて来てくださった方など。

言ってみれば
絵を見るのが楽しみ・萩原の絵が好きという方と
久しぶりに萩原に会いたい方という気がする。
どちらかというと後者の理由で
銀座までお運びいただけていると思うからこそ
毎日、会場に出向くのが作家の務めと心得、
私は毎日綺麗にして「銀座の女」を
相務めた。

そして、個展であるから販売もしているわけだが、
お客様には
「よし、今回は気に入った作品があったら是非1枚」
と思っている方と
そんな気はさらさらない方とに分かれる。

何が「気にいった作品」になるのかは
人それぞれだけど、
作品からご自分の信条や生活につなげて
物語を紡げた時が
「気に入った」時だという気がする。

通常、展覧会には作家はいないので
絵を見ていろいろなことを想像したりして
絵を鑑賞することがほとんどだと思う。

しかし、個展の場合は作家が会場にいて
その作品にどんな思いを込めたとか
どんなコンセプトで制作したかなど
作品の背景をお話しすることができる。

私の場合はとりわけ具体的なモチーフが
出てくるので
なぜ白鷺か、なぜシマエナガか、
なぜ紫陽花か、なぜ蓮か、なぜむくげなのかなど
それぞれの作品の前で説明することが出来た。

多かった質問は
大きな作品の背景に使われている楽譜は
「何の曲ですか」というもので
「ショパンの雨だれです」と答えると
大抵の方は「ほほぉ」という反応を示した。
(どんな「ほほぉ」かは存じませぬが…)

今回のDMに使った『凛として』は
「白鷺立つ」という小説の表紙のために
創り下ろした作品で
「比叡山延暦寺の僧侶が千日修行に出る時の
白い衣と蓮の葉を象った被り物をかぶっているが
それがまるで白鷺のようだというところから…」
といった説明をした。

その話が亡くなった旦那様の生い立ちとつながり
タイトルの込めた思いに共感してという具合で
その作品に入り込まれたりする。

お求めくださった方々は
それぞれ共鳴する思いがあって
作品を選んでくださっている様子だ。

もちろん中には
「長いお付き合いだから、そろそろ1枚」
といった方もいらっしゃるけど、
それでもこの1枚と思って選ぶときには
大きさや値段だけの判断基準ではなく
何かその作品にかけた思いがあるのだと思う。

今回、お求めいただいた作品の中で
一番大きな作品は「雨の音色」だ。
正面のメインの壁に1枚だけ飾った作品だ。

ちょっとやそっとのおうちでは
飾り切れない大きさだと思うが、
以前から私のことを可愛がってくださっている
ご夫婦がさらりと決めてくださった。

聞けば、三男さんが山梨の大学教授になられ
おうちを新築なさったのでそのお祝いにとのこと。

「本当はしばらくご自宅に飾ってからと思ったけど
まあ、お祝いだから送ってくだい」
ということだった。

どんな豪邸なのかしらと少し心配だけど
この作品を気にいってくださってと
心が弾んだ。
どうか贈られた三男さんと奥さんの
お気に召しますようにと願うばかりだ。

そんな風に毎日、どなたかが作品に
赤丸印(お買い上げ予約)をつけてくださる度に
その作品を選んだ理由を話してくださるのが
個展における望外の喜びだ。

この作品はまだ見ぬお宅のどこに飾られ
その方の人生に寄り添うことができるのか。

お求めいただいた作品は
いつでも娘を「お嫁に出すような親心」で
真心を込め梱包し、配送手続きをする。

「どの子も元気でいてね。
可愛がってもらうんだよ」
の気持ちを込めて。

12人の娘達、
行ってらっしゃい!!








2026年9月14日月曜日

2026養清堂個展はじまる

 

















2026年9月1日(月)
いよいよ銀座・養清堂画廊にて
5年ぶりの個展が始まった。

天気は曇りときどき小雨。
と、書くと
後は晴れたのかという展開が想像できるが
なんとこの日から最終日の12日まで
晴れた日は1日もない。
秋の長雨の季節に突入したとかで
連日、雨降りの個展だった。

そこまで連動しなくてもいいと思うのだが。

作品のテーマは期せずして『雨』
2020年にはじまったコロナ禍において
「世界中の皆の心に雨が降っているよね」
と、感じたあの日々。
そんな心象風景としての
「雨のシリーズ」の始まりである。

自分は戦争を知らずに死ねる年代かなと
勝手に思っていたけど、
まさかこんなことが起こるなんて…。

戦争を体験した作家が
戦争の悲惨さを作品に残そうとするのと同じく
コロナ禍で感じたこの気持ちを
何とか作品に残したい
そんな思いでこのシリーズは始まった。

雨といえば紫陽花、そして、蓮。
モチーフも年を追うごとに変化した。
2026年までの5年分の作品の中から
今回は全25点の展示である。

そのうち2022年の作品を3点出品し、
2023年に悩める乙女が呻吟し、絵肌を変え
2024年から今日までの
作風になってからの22点と合わせて計25点。

壁面の関係で
悩める乙女が制作した2023年の作品は
1点も出品していない。

しかし、来場くださったお客様には
そのあたりの経緯を説明し
今やその雨も上がりそうだとお話しした。

会期は1日から12日までの約2週間あった。
通常、個展は1週間
つまり6日間だけだけど
その倍の長さを毎日、銀座に通うのは
ペース配分が大切だ。

こう見えて7月には入院手術をした身なので
元気そうに見えても
実は病み上がり。
途中で倒れるわけにはいかない。

そこで今回は連日、キャスト
つまり
お手伝いに友人や娘を動員することにした。
また、1週目2週目の火曜日から2泊3日
安いホテルもとって家に帰る時間をカットした。
それはいずれも大正解の決断だったと思う。

初日のキャストは次女。
今回はお盆明けのセッティングの日、
キャプションつくり、
初日と千秋楽とに手伝ってもらい
大活躍の大助かりだった。

一番大変だったのは最終日の後の
お買い上げ作品の梱包と配送手配だった。
ここは実家に泊り込んでの丸1日の作業で
当分、私は次女には頭が上がらない。

美術系の仕事の娘は
こういう時にこそ役に立つ。

私は2週間の会期の内、
初日くらいはと着物を着こみ、
いよいよ『銀座の女』の開幕である。

いつもいろいろ助けてくれる友人Aさんは
お願いした2日間のキャストの他に
「初日には主人と着物で伺うわ」というので
こちらも相応のお出迎えをしなければと
いうわけだ。

他にも遠くに住む親せきや
古くからの友人などが
みんな展覧会の雰囲気を壊さないようにとか
私らしいイメージのものをと
工夫を凝らして大きなお花のアレンジメントを
入れてくださった。

暑い夏に2週間持たせるのは無理かなと思いつつ
まずはきれいなうちに記念撮影をして
お礼メールに添付して送った。

そんなこんなはみんな
銀座のママがお客様のためにすることかなと
想像しながら
にわか「銀座の女」は忙しい初日を終えた。

実は8月17日から2週間
養清堂画廊のプレオープン記念展が行われ
同時開催で私の個展も行われたので
9月1日、初日に会場にいくと
すでに芳名帳には150名ほどのお名前が
書かれてあった。

主には養清堂に関係のある作家さんやお客さん
出版関係といった方々なので、
私の個人的な交友関係はさほどない方ばかり。

いつもならそういう中から作家で親しい方や
出版関係の方が、初日に見えるのだが
今回はそういう方はすでにいらしているので
本展の会期中は
まっこと私の友人知人ファンクラブ?という
方しかいないなと初日に悟った。

ゆえに
これは毎日、きれいにしていなければと
心して
初日の「銀座の女」は終了した。

その日の夜は次女とお寿司屋さんでご飯をし
築地近くのインバウンド用のホテルに
泊った。

一目散で帯を解き、
汗になった着物をベッドに広げ
狭い棺桶のような湯船にお湯をはり
中にうずくまって深く深呼吸をした。

早々にベッドに横になってからは
「また、明日から
どんなお客様が来てくださるのかしら」と
思いめぐらす間もなく
眠りに落ちた初日だった。























2026年8月31日月曜日

圧巻の『ロン・ミュエク展』

 

















個展の直前だけど、
終わってからでは行きそびれると思い、
次女を誘って
六本木の森美術館でやっている
『ロン・ミュエク展』に行ってきた。

次女はすでに観ていた展覧会だったけど、
もう一度観てもいいと誘いにのってくれた。

『ロン・ミュエク』は
巨大でリアルで精緻な人物像を創る
現代美術作家だ。

私が初めてミュエクの本物を観たのは
秋田県の十和田市現代美術館の
「スタンディング・ウーマン・という作品だった。

高い美術館の天井に頭がつくほどの
巨人のお婆さん像で
そのあまりの大きさと精緻な肌やしわやしみの
リアルさに目を見張った。

15年位前の話で
その時も個人旅行で次女との二人旅だったから、
ミュエクは
私たち共通の思い出深い作家ということになる。

ロン・ミュエクは
1958年生まれのオーストラリア人(英国在住)
若い頃はデザイン分野で仕事をしていたけど、
途中から、今のような作品を
創り始めたという。

今回は11点の作品展示だったが、
1点というか1体創るのに数年かかるものもある
という。
会場で1時間近く流れる制作風景の動画を見ても
その制作は気の遠くなるような工程で
作家の作品に対する執念や哲学を感じた。

各展示には詳しい説明のあるキャプションが
ついており、
それを読むとミュエクの
その作品を通して表現したかった思いや
私達観るものにゆだねる部分がわかり
とても興味深かった。

とにかくまず会場に入ってすぐの
雑木の束を持って反りかえるように立つ女。

なぜ、全裸でそんなものを持っているのかは
観るものに考察はゆだねられているが、
まず、その血管が浮き出た太い腕、
雑木でできたひっかき傷、
重いものを持って力の入っている腰。
繁く生えている陰毛。

何とも得体のしれないたくましさと
女の決意のようなものを感じた。

その次がベッドに横たわる巨大な女。
愁いを帯びた表情で
頬に添えられた右手の指が
少し頬のたるみに食い込んでいる。
間近で見ていると女の呼吸さえ感じるほど。

こんなに大きなものを
一体どうやって創るのか。
急にものつくりの好奇心がむくむくと湧いた。

実際の制作風景の映像を見て
そのあまりの大変さに驚き呆れた。
大きいというだけで等身大や小ぶりのものに
比べ、何倍も工程が複雑化する。

それをミュエクはふたりの女性の助手と共に
制作していた。

貧相な若いカップルにしか見えない二人も
後ろに回ってみると
男が女の手首を握り、拘束していることが判り
にわかに不穏な空気が漂う。

こうして洋服を着ている人体も
元の塑像では
しっかり裸体で細部まで創られている。

もちろんそこにも作家の意図があるに違いない。

巨大で不気味なミュエク本人のマスク。
寝ている姿なのだが
ひげの1本1本植え込まれているし、
半開きの口元からは歯並びが覗き、
息遣いまで感じられる。

しかし、後ろに回れば
その顔はマスク状に創られているので
後頭部はない。

何を意味しているのか
この空虚な感じ、孤独や不安が押し寄せる。

最後の『マス』という作品は
大きな展示会場めいっぱいに積み上がった
数多くの巨大な骸骨。

観覧者はそこで記念写真を撮っているけど
撮った写真は美しくもあり
不思議でもあり、不気味でもある。

11点の作品を観るのに2時間もかかったけど
とても面白い展覧会だった。

ロン・ミュエクの才能を応援する人がいて
作品制作を具現化できていることに
嫉妬すら覚えたけど、
自分と同年代の作家の活躍に
大いに力を得た1日だった。































2026年8月28日金曜日

養清堂オープン記念展

 














8月半ば、
リニューアルオープンした養清堂画廊は
元はといえば、2階建ての自社ビルだった。
1階が店舗と事務所で、2階がギャラリー。

2階のギャラリーは企画展と貸し画廊としての
展覧会が混在している形だった。

しかし、リニューアルした画廊は
5階が貸し画廊
6階が店舗兼事務所なので常設展示
7階が企画展
という3層構造になった。

今回のオープン記念展は
6階と7階の両方ともを使っての企画展だ。
75名の養清堂で作品を売ってもらっている
作家による小品ばかりの展覧会。

個人的には
大学院修了時の初めての個展に始まり
これまで大きな個展はすべて
養清堂画廊で行ってきた。

しかし、企画展かというとそうではない。

初回の展覧会は
前社長による半企画展だったけど、
それ以後は海外転勤で日本を離れていたため、
以降、個展の出来そうなタイミングで
自分から会期を申し出て予約してきた。

企画と企画でないとでは
作品が売れた時の作家の取り分が全く違うし、
そもそも企画展の場合は
場所代が0円である。

銀座の画廊の場所代は
「たった1週間でそんなに?!」と思うほど
目が飛び出る額だけれど、
逆に企画展だと
そこを0円にしてもらうプレッシャーもある。

もちろん企画展を打ってもらえるのは
作家にとって名誉なことではあるけど、
そこで1点も売れないとなると
ちょっと気まずいかもしれない。

ともかく私の場合は
意図せずに日本に住んでなかったせいで
10年以上、
版画界の幽霊部員みたいになっていたので
企画を打ってもらえなくても仕方あるまい。

今回の画廊のオープン記念展では
5階に個展と同じ展示をさせてもらった上に
6階7階のオープン記念展の方にも
参加させてもらっている。

なので「ひなたぼっこ」という亀のいる小品が
あっちにもこっちにもあることになる。

それが出来るのが版画のいいところなので
お客様にもそのあたりを
楽しんでもらえたらと思う。

オープン記念展の方はなにしろ75点の作品を
6階と7階に並べているので
ひとくちにいってぎゅう詰め状態だ。

それもテイストの違うものが並ぶので
どうしても展覧会というより
販売会という印象は否めない。

しかし、逆に6階7階を見に来ている人は
「どれを買おうかな」という目で
見ているかもしれないが、
5階の展覧会はどうだろう。

今後は5階は貸し画廊の展覧会
6階は常設展示の販売会
7階はどちらかというと現代版画の企画展

色合いの異なるギャラリーが3つ
ということになるのかもしれない。

まだ始まったばかりの
新生養清堂画廊。

すでに配布されている案内状をみても
必ずしも「月曜始まり土曜終わり」でも
なさそうで、
イレギュラーな会期になっている。

そんな中、私だけ
本来1週間だけ(月から土まで)のところを
8月17日から9月12日まで
約1カ月もの展示期間をもらえたのは
とてもラッキーなことだと思う。

どうか、ひとりでも多くの方のご来訪があり
たくさんのご縁が結ばれますようにと
今は祈るばかりである。