2025年12月3日水曜日

晩秋の北鎌倉

 














2025年も早12月になり、
余すところひと月になった。
年々歳々同じことを言っているが、
時の経つのが早すぎる。

今日は12月のお茶のお稽古の1回目。
久しぶりに
前後にカウンセリングが入っていなかったので
着物で出かけることにした。

本来、茶道は着物を着て行うように
所作は出来ているので
やはり出来れば着物でお稽古に行きたい。

天気予報では午前中に少し雨が残るかもと
いうことだったので、
白っぽい着物は辞めて
黒地の大島紬に刺繍の入った訪問着と
沖縄の紅型の名古屋帯を合わせることにした。

着物の刺繍は全身に
モノクロームでもみじと桜が描かれている。
こうした柄は春でも秋でも着られるよう
季節の違う樹木を同時に刺している。

お茶の茶碗や茶器にもこうした柄は時折あって
「春秋柄」と呼ばれている。

着物としては全体に黒っぽいモノトーンなので、
むしろ帯の紅型模様が映えるよう選んでみた。

今回の大島紬は
昔、誂えた着物なので
身幅が狭くなっているのではと心配したが、
ここのところ痩せたせいで
かなり余裕で身頃の打合せが重ねられ
まずはホッと一安心。

北鎌倉の駅前でいつもどおり
鎌倉からの友人2人と待ち合わせ、
北鎌倉の住宅街の細い抜け道に入った。

北鎌倉駅周辺は鎌倉駅とは全く違い
人の気配もない静かな街だ。
とりわけ、私たちが歩く道は
車も入れない小路なので
昔ながらの戸建てのおうちがひっそりと並び、
その庭先には季節の木々が植えられている。

日本家屋に似合う樹木が選ばれているので
お茶のお稽古に使えるような花も多い。

今はもみじの紅葉がそろそろ終わりの時期で
小路に散り敷いたもみじが
道を覆いつくして美しい。

着物を着た3人が少し濡れているもみじを踏んで
小路をゆく姿はちょっと絵になる。

お稽古場の先生のお宅の近くに
とてももみじの綺麗な場所があるというので
今日は少し寄り道をして
まず、そのもみじを観に行った。

やはりもみじとしては終わりかけだったけど
散り敷いたもみじは
小路のもみじより色鮮やかで
木戸や橋の古びた木の色とのコントラストが
北鎌倉らしい情緒を感じさせた。

「北鎌倉にお茶のお稽古に」
なんて耳心地のいいサウンドだろう。

まして着物で出かけていくなんて
贅沢な非日常だとしみじみ思えてくる。

先生のお宅もだいぶ古くなった日本家屋で
先週あたりから茶室の電灯の調子が悪い。
そのせいで灯りのない自然光の薄暗い茶室で
お稽古は行われた。

谷崎の「陰影礼賛」ではないが
障子を通したわずかな光を手掛かりに
炉を切ってかけられたお釜の湯で
濃茶を点てる。

五感が研ぎ澄まされ
抹茶を練るとその香りが瞬時に茶碗から香り立つ。
お釜の下の炭の火が赤く燃え、
薄暗い手元を少し明るく照らすようだ。

お茶が点てられ、正客が立ち上がり
畳を歩くと衣擦れの音がする。

自分の席に茶碗を持ち帰り、
一服、口に含んだ時に声をかける。
「お服加減はいかがですか」
「たいへん結構でございます」

そんな大人のままごとみたいなやりとり。

お茶名やお詰め、お菓子の名前を正客が尋ねる。
お道具の拝見で出された茶入れや茶杓の銘を
自分で考えてきて答えることで
季節に思いを馳せたり
昨今の話題に転じたりして会話を楽しむ。

そんな優雅で静かな時が流れた。

私が今日、考えていった茶杓のご銘は
「初霜」
他のふたりは「静寂」と「都鳥」

みな、歳時記などを見ながら
その時期にふさわしい銘を考えてくるのだ。

残念ながら茶室の撮影がNGなので
何もお見せできないが
その季節にあったお道具組でしつらえた
お軸やお棚、水差しや茶碗などを愛でながら
ゆるりとお濃茶とお薄をいただく。

お茶には必ずお菓子がついてくる。
今日はお濃茶には柳月製「ころ柿」だった。
まるで本物の干し柿のような形で
中にあんこが入っていて美味だった。

しかし、もうひとつ、到来物の京都のお菓子
一善やの
「干し柿と胡桃と無花果のミルフィーユ」という
何層にも重なったお菓子が絶品だった。

いくつもの違う食感と
絶妙なバランスの食材の組み合わせで
思わず自分でもお取り寄せしようかと思ったほど。

家に帰って調べたら
とても高価だったので
美味しいはずだと思った。

お薄のお菓子も
大徳寺納豆を練り込んだ打ちものと
菊花の形の有名な落雁。

こんな風にいろいろな和菓子に出会えるのも
お茶のお稽古の楽しみだ。

結局、心配していた雨にも降られず
お稽古の帰り道も
ふたたび小路を縫って駅に急いだ。

行きがけには気づかなかった
民家の屋根に散ったもみじを
写真に収めたりしたが、
北鎌倉の駅舎が見えた頃には
この浮世離れしたひとときも
電車の踏切の音で終わりをつげた。


























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