2015年4月8日水曜日

三津五郎 嗚呼 あなたもか

 
 
東銀座にある東劇で『野田版 鼠小僧』を観てきた。
 
シネマ歌舞伎といって、今まで舞台で行われた公演を映画にリメイクし
映画館で上映するものだ。
 
舞台を見逃した人にとっては安価にて当時と同じ演目が観られるという利点がある。
また、クローズアップが多いので、役者の表情や演技がアップで見られる。
舞台を観た人も再び観ることで、懐かしんだり、再発見したりできる。
 
シネマ歌舞伎の『野田版 鼠小僧』は2005年に公開されているから
今年で10年目の節目の年になるが、
実際の舞台は12年前の2003年に新橋演舞場で行われている。
 
主役の中村勘三郎はまだ当時中村勘九郎の名で出ているし、
坂東三津五郎、中村福助、中村橋之助などの役者も皆、若々しい。
 
獅童や勘太郎(今の勘九郎)、七之助などはまだちょい役だ。
 
あれから12年経ち、月日が巡って干支が一巡したことで
何と、主要な役者の内、中村勘三郎と板東三津五郎はすでにこの世にいない。
 
2年前だったか、同じく『野田版 鼠小僧』を町田の映画館で観たときは
勘三郎が亡くなってすぐだったので、
この舞台を生で観なかったことを後悔したものだが、
今回は三津五郎もいなくなってしまっていることに喪失感がつのった。
 
棺桶屋の三太と鼠小僧の二役を演じた勘三郎の汗水たらした大活躍も凄いが
大岡越前役の三津五郎の気高いたたずまいと正統派の演技、
思わずニンマリしてしまうユーモアなど、
勘三郎みたいな破天荒でわかりやすいショーマンシップとは違う
歌舞伎界のレジェンドが挑むコメディといった趣がたまらない。
 
そのふたりの対照的な妙があってこその『野田版 鼠小僧』だと思うが、
その二人ともを欠いては、すでにして成り立たないのだから、
野田秀樹はもちろん、演劇界、歌舞伎界、映画界の嘆きはいかばかりだろう。
 
この演目の中では未亡人お高という役で出ている中村福助も出色の出来で
個人的にはその声が艶っぽくて大好きだ。
 
いつだったか福助の『八百屋お七』を観たときの
美しさと踊りのうまさに感動したが、
彼女(彼?)のいざという時のはっちゃけぶりは特筆もので、
大物は何をやらせても一流だと感じ入るばかりだ。
 
今60前後の何人かは本当にいいコンビ、いいチームだったのに惜しいよねえ。
 
残っている役者陣はお願いだから体を大事にして欲しいし、
順調に育ちつつある獅童や勘九郎(現勘三郎)、七之助は
父親や三津五郎の穴を埋めつつ、新たなる境地を拓いてもらいたい。
 
お金に余裕のない私にとって
生で観られなかった歌舞伎が映画になって戻ってきてくれることは
とてもありがたいこと。
 
この先も11月まで毎月、1公演6日間だけという限られた上映日程で
10の演目が組まれている。
 
1演目たったの6日間というのはけっこうシビアな日数だけれど、
観たいものと予定が合えば、お得な鑑賞と言えるだろう。
 
歌舞伎は敷居が高くてと思っている方にもオススメである。


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