2022年11月13日日曜日

本摺り終了




















金・土曜日の2日間かけて
「庭の雨おと」という作品の本摺りをした。

先週、久しぶりの試摺りをしたら
なかなか思うような色に収まらず、
人格が崩壊寸前の心理状況に追い込まれた。
そこから少しクールダウンしての
本摺りである。

本摺りは前日の木曜日には
絵具の調合と和紙の湿しを行い、
当日の朝を迎えたら、
ひたすら集中して摺りの作業を行う。

最初は雨のパート、
つまり、色が薄くて繊細な部分を摺る。

次に椅子が白い鋳物の椅子なので、
白からグレーの5段階の色を
紫みを帯びたパープルグレーで摺る。

湿した和紙は4枚で、
和紙のサイズギリギリの大きさの画面なので、
見当(和紙を同じ場所に置くマーク)は
版木の中には作れないので、
見当版というかぎ型の板に見当を彫り、
それに和紙の端を当てて摺っていく。

色は同じ色を2回ずつ摺ることで
ようやく濃く発色するので、
例えば、雨のパートは
白、淡い緑、淡い紫、淡い黄緑、水色の5色の
グラデーションを版に筆でのせて、
まず1回目を裏からバレンで摺り、
もう一度、同じ作業をして2度目を摺る。

4枚あるから8回同じ作業工程があり、
ようやく雨のパートが摺りあがる。

こうして、ジグソーパズルのように、
ひとつのパートを4枚とも摺り終えたら
次のパートを摺るという形で
徐々に各パートに彩色がなされていく。

今回はその工程がよくわかるように
順番に写真を並べてみたので、
どこが次に摺られたか
よく観て当てていただけたらと思う。

金曜日は朝から夕方までかかって
雨のパート、椅子のパート、
背景と土、
紫陽花の花の中央部分と葉っぱまで
摺ったところでバレンを置いた。

体力的にも限界だったが、
途中でやめる時、
その作品の途中経過に満足できる段階で
辞めることがとても大切だ。

そうしないと心理的に不安になったりして
よく眠れなかったりするからだ。

外の乾燥がひどく、
毎回毎回、作品にはことあるごとに噴霧器で
霧を吹き、
もちろん部屋は加湿器で
最大量、霧もまき散らしているが、
最後にもう一度全体に霧吹きをして、
厚ボールでサンドし、
ビニールのテーブルクロスをかけ
寝かす。

夕飯後、早めに就寝したが
12時頃、目が覚めてしまったので、
今一度起き上がり、
葉っぱの後ろの濃い緑のグラデーションと
紫陽花の花(正確にはがくらしいが)の
紫の3色グラデを摺り、
再び、布団の中に。
所要時間2時間。

つまり、1パート
約1時間ずつかかるという感じか。

土曜日の朝は9時からカウンセリングが
入っていたので、
モードをカウンセラーに切り替え、
仕事に。

生育歴に問題のある女性で、
ネグレクトの後遺症に悩んでいるという
重いクライアントさんなので、
こちらも真剣に取り組まなければと
制作とは違う神経と遣いつつ、
セッションを終え、10時45分に帰宅。

ダンナは金曜はゴルフに
土曜はヨットに出かけてくれているので
内心、お気楽なもんだとは思うが、
なにしろひとりになれるのが嬉しい。

土曜日11時、
本摺り再開。

後半戦は作品としてのまとまりを意識して、
作った色を微調整しながら、
2版目の飾り彫りを重ね摺りしていく。

ここで今回、私は生まれて初めての決断をした。
紫陽花の花と葉っぱ用に
2版目の飾り彫りを彫ってあったのだが、
思い切って省くことにしたのだ。

この作品では紫陽花は椅子の向こう側、
いわば背景といってもいい位置づけ。
そこに2版目の版まで重ねては
説明過多になるのではという思いが浮かんだ。

どちらかというと完璧主義で
説明過多になるタイプの人間なので、
引き算して作品を創ることができない。

必要な版はあらかじめ全部創っておかないと
後からでは版がズレるリスクが高まる。
もし必要がないなら
試し摺りの段階で使わないという選択もある。

そういつも考えていたのだが、
試し摺りで摺ったものを
本摺りでやめるという経験は今までなかった。

しかし、本摺りの過程の中で
なぜか飾り彫りは必要ないのではという
考えが首をもたげたのだ。

結局「あんなにめんどくさい彫りだったのに」
という彫師きみのの恨み節が聴こえてはいたが
思い切って花と葉っぱの飾り彫りは
摺らないことにした。

土曜日の夕方5時。
ほとんど陽も落ちて外は真っ暗。
乾燥を進ませないために
目の前のシャッターは下ろしたままなので、
金曜日も土曜日も
朝も昼も夜中も私には関係なし。

何とか作品をベニヤ板に水張りし、
作業はすべて終了した。

気が付けば、肩はバキバキ、
腰はズキズキ、目はショボショボ。

これ、いつまで続けられるかなと
心の底から思ったが、
気持ちは達成感で満ち溢れ、
あの人格崩壊寸前の試し摺りから1週間、
ようやく穏やかな食卓につくことができた。

ビールが五臓六腑に染みわたり、
この1杯のために
がんばった自分を褒めることも忘れない。






























 

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