2022年11月4日金曜日

試摺りは産みの苦しみ

 










版画の作業の中で
一番辛いのは「試摺り」である。

版画の作業工程はまず、作品の原画を描く。
それは鉛筆を使ってドローイングという形で
いわゆる線描きで描写する。

次にその原画を
トレッシングペーパーに写す。
そして、それを版木に分割して転写する。
私の場合は10~12版に分割することが多い。

それから、彫りの作業が延々と続く。

全部、彫り終わったら、
次はいよいよ摺りの作業に移る。

まずはイメージに描いている色を版木に載せ
試し摺りをとる。
1回ですんなりオーケーとはいかないので
何回か
摺りの修正と彫りの修正をする。

最後の本摺りのイメージが掴めたら
仕切り直して、
絵具と和紙の準備をして
本摺りを行う。

この長い工程の中で
1番クリエイティブと言えばそうなのだが、
1番ナーバスになり、
胃がキリキリ痛むような感じで
臨むのが「試摺り」である。

夏場は暑いとクーラーを使いたくなるので、
彫りの作業しかできない。
摺りの作業は和紙を湿した状態を保たないと
いけないので、秋になってからしかできないのだ。
したがって、暖房を使うことも許されない。

というわけで
2点分の作品の彫りを7月から10月までかけ
ずっと続けてきた。
今年は心理カウンセリングの入る率が上がり、
月平均18~20本ぐらい入っているので、
例年より、摺りの作業に入るのが遅れている。

私は、毎月、月初めには
今月の目標を掲げているのだが、
ようやく11月の目標として
「新作の試摺りと本摺り」と書くことができた。

新作は2点分、彫ったのだが、
まずは7~8月に彫っていた大きい方の作品から
摺ることにした。

運よくダンナが月末から泊りがけで
自転車のツーリングに行くというので、
月の始めからひとり試摺りに取り組めると
ほくそ笑んでいた。

しかし、前日にいきなりカウンセリング予約の希望が
入り、新しいクライアントさんなので
なるべく第一希望の日時をとってあげることに
しているため、
1日の午前中がカウンセリングになってしまった。

こんな風にカウンセリングが入った後、
いくら気持ちを切り替え臨んでも
試摺りは半日ではうまくいかない。

たった1枚の試摺りを完成させるのに
丸1日はかかるし、
使う神経が半端ないので
カウンセリングの後ではガス欠状態になる。

まさに産みの苦しみとはこのことで、
イメージしていた色を1色ずつ載せて摺るのだが、
途中で何だか全体のまとまりがなくなったり、
思考が停止したり、
摺った色が気に食わなかったりする。

描いたり消したり削ったりができないのが
版画のやっかいなところだ。

濡れた絵具は乾くと明度が上がり、
彩度が落ちるので、
そのことを加味して摺らなければならない。

結局、11月1日に摺った試摺りは
まったく気に入らず、
完全に仕切り直しとなった。

やはり、試摺りは朝早くから
ひとりアトリエに籠って
誰とも口をきかずに夕方まで作業ができる日で
ないとうまくいかない。

今日4日は1日中作業はできるのだが、
あいにくダンナは夕べツーリングから
帰ってきてしまったので、
完全に一人暮らしというわけにはいかなかった。

こんな時、本当にひとり暮らしに
なりたいと思うが、
言ってもしょうがないので、
朝ご飯と昼ご飯を一度に作って
気配を消してアトリエに籠った。

写真2枚目のとりあえず参考作品として
ボードに貼ってあるのが、
1日に摺った「くそ」みたいな駄作である。

試摺りのまともなものができるまでは
自分のことは本当にポンコツのくそ野郎だと
口汚くののしり、
自己肯定感もダダ下がりなので、
近寄らない方がいい危険人物になる。

今日の夕方、
なんとか先の見える試摺りが出来たので、
ようやくまともな人格が戻ってきた。

ちゃんと夕餉の支度も出来たし、
お風呂にも入った。

これから明日明後日と
陶芸やカウンセリングの合間の時間で
最終調整をして
できれば来週の週末にかけて
本摺りに持ち込みたいと思っている。

私の版画を皆さんがどのように見ているかは
知る由もないが、
多分、皆さんの想像以上に産みの苦しみは大きく、
だからといって痩せる気配もないが
作家は創る度にもだえ苦しんでいる。

そんなことは微塵も感じさせずに
時には着物ででかけ、
カウンセリングではしたり顔で相談にのり、
陶芸でも精力的に制作している。

あれやこれやに手を出して、
しかし一番長くやっている版画が
一番苦しいとは皮肉なこと。

せめて美しい新作ができますように。
今はまだ、産みの苦しみの真っ最中である。




















0 件のコメント:

コメントを投稿