2023年10月14日土曜日

半月遅れの秋の訪れ

 



















例年、私の秋は我が家の玄関脇にある
金木犀の花がいい香りを放つところから始まる。

それは毎年、判で押したように
10月1日の朝、新聞を取りに玄関ドアを
開けた時から始まっていたのだが、
今年はちょっと違った。

何しろ有史以来の暑い夏、
9月になってもその暑さは収まらず
10月に入っても朝晩多少は涼しくなったが
日中はまだまだ真夏日に迫る勢いだった。

そのせいか、街中の金木犀がまだ夏だと認識し、
10月になってもつぼみは固く閉じたままだった。

それが昨日の朝、
ようやく少しだけ開花したようで
朝いちばんにその香しい香りを運んできた。

半月遅れの秋の訪れだったが、
季節も進んで、空にはうろこ雲が浮かび、
爽やかな風が吹き渡っている。

私事で言えば、今月は1日からとにかく
土曜も日曜もなく、毎日、
カウンセリングが入っていた。
昨日などは3件もこなしたので
帰宅したらフラフラになってしまった。

ひとり1時間15分、
人生の迷子の子羊たちの話を
真剣に聴いてしまうと
こちらが疲労困憊になってしまう。

今日も午前中に1本カウンセリングは
入っていたけど、
午後は横浜・元町の岩崎ミュージアムまで
友人の個展を観に行こうと決めていた。

10日ぐらい前に届いた案内状を持ち、
まずは京急線に乗り、横浜で乗り換え、
みなとみらい線の元町・中華街駅に降りて、
エレベーターを2基乗り継いで
山下町の丘の上に出た。

なんだかさっきまでの仕事モードがほぐれ
秋の柔らかな日差しが眩しい。

整えられた庭園を散策する人、
ベンチに座ってのんびりしている人、
芝生に座り込んで談笑するグループ、
犬の散歩の人々が行き交っている。

そののどかな感じがいかにも気持ちいい。

岩崎ミュージアムは
以前、自分が所属するグループ展で、
毎年、展示していた場所だけれど、
そのグループ展がなくなってからは
久しぶりだ。

ギャラリーには所狭しと60点近くの
大小の鳥をモチーフにした木版画が
飾られている。

作者の長島充氏は
野鳥の観察と研究にも造詣が深いとかで
自ら「野鳥版画」という新ジャンルを打ち立て
ここ20数年は
鳥の作品ばかりを手掛けている。

版画協会に所属しているということと
年齢が近いという共通点を
除いては
出身大学も違うし、さして接点はないのだが
「横浜での個展は初めてです」と
案内状に一筆添えられていたので
観に行くことにした。

会場に着くなり、名前を呼んで
お礼を言われたので、
顔を覚えてくれていたのかと
内心、驚いたが、
旧知のような顔でおしゃべりしてきた。

お互い、大きな団体の中で
木版という版種が同じなのと、
具象か抽象かでいえば具象絵画だということで
何となくそれぞれの作品を気にしていたのだと
思う。

会場にはいつも使っている版画の道具や
野鳥観察に使う道具類も展示されていたので
作り手として専門的なことを質問するのに
好都合だったせいで、
話が弾んだ。

通常、作家業は孤独な仕事なので、
作家同士が寄り合って、使っている道具の話や
技術的なことを話す機会はほとんどない。

展覧会に来てくださった
作品を創っていないお客様や友人とは
そんな専門的かつ技術的な話はしないので
お互い、そうした話を聴けたり
話せたことがとても楽しかった。

今週、私も大きな新作の原画を起こした。
方眼紙に描いた鉛筆画の原画を
トレッシングペーパーに移し、
更に版木に転写するというところまで
ようやく3日がかりでこぎつけたところだ。

この後の私の10月にミッションは
暇を見つけては彫りを進めること。
(遊ぶ予定もぎっしりなので大変だ)

ここで友人の膨大な量の作品を観て、
私も頑張ろうと
エネルギーをチャージできた。

連日のカウンセリングで
あわやカウンセラー一色に染まりそうな日々
だったけれど、
からくも版画家の使命を呼び戻すことのできた
美しい秋の1日だった。



























0 件のコメント:

コメントを投稿