2023年10月29日日曜日

陶芸の先生の個展

 













24日の火曜日から開催されていた
陶芸の先生の個展、
最終日の今日、
会場のお当番を割り振られていた。

12時からという指定だったが、
30分ほど早く、
青山1丁目の「サイト青山」なるギャラリーに
到着した。

初めて伺うギャラリーで、
そこは周囲とは全く趣の異なる
古民家の1階を改装したようなギャラリーだった。

青山1丁目までは大門で大江戸線に乗り換え
難なく着けたが、
そこから地図を頼りにギャラリーのすぐそばまで
来ているのに迷子になった。

周囲にはいかにも青山という感じの
タワマンがあり、
戸建ての家にはどこも高級車が止まっている。

しかし、そのギャラリーだけは
他の建物とは異次元の様子で
誰もそこにギャラリーがあるとは思わない。

大家のおばあさんが今年いっぱいで
貸し画廊は辞める予定だというが、
縁あって個展をすることになったらしい。

丸いガラス窓がはめ込まれた玄関ドアを開けると
会場にひとり先生がテーブル前に座っていた。

いつもはつなぎの作業着を着て、
私が通う土曜の午後は
体験のお客さん相手に陶芸を教えているが、
今日ばかりは陶芸作家・山本秀夫である。

まずは今回の個展の作品群を見て回り、
「COSMOS」と銘うたれた理由を尋ねてみた。

先生は高校の美術の先生をしながら
現代美術の彫刻を創作し、
一方で美術評論をしていた方なので、
「コスモスというと皆、宇宙を思い浮かべるけど
キリスト教もイスラムもすべての宗教の源は
ひとつで
そこには厳然たる秩序があってゆるぎない…」
と、このあたりで
私の理解はギブアップしたが、
いろいろ説明してくださった。

そのゆるぎない秩序を形にしたものが
今回の立方体や直方体の陶器で
決して器として創られたものではない。
オブジェである。

そこに釉薬を重ねづけすると
高温で焼成する時、釜の中で人知を超えた現象が起き、
黒い釉薬のすぐ隣に白いチタン失透という釉薬を
かけた器を置いたら
白い釉薬が宙を横っ飛びに飛んで
黒い器にペタッと張り付いたとか…。

そんな怪奇現象のような作品が2つ3つ。

また、釉薬を分厚くかけると
化学反応で釉薬がはじけて
水玉模様のような穴を作り出すこともあるとか。

抹茶椀のような器の外側に
刃物で削ったような穴がボコボコと
ぶきみな表情を見せている。

「そんな偶然の産物が生み出す表情が
秩序だったコスモスの中の無秩序のようで、
それが面白い」と
先生らしい難しい論理が展開された。

日曜日のギャラリーにはお客さんが全く
こなかったので、
私は延々とその難しいコンセプトにおつきあい。

途中、陶芸工房の会員の男性が見えたので
今度は私達に向かって、
「なぜ、会員36名の内、先生の個展に20人しか
こないのか。
現物を見なければ勉強にならないのに、
先生の個展になんて行かなくてもいいと
最近入会した人は思っているんだろうか」と
これまた、本音というか願望をいうか
先生の思いがあふれ出た。

一般のお客さんが誰も来なかったせいで、
話は陶芸工房に、みんなが
どんな目的で入会しているのかというような
普段はなかなか話さないような話題になり、
それはそれで面白い時間だった。

私自身も版画家として
個展はとても大事にしている展覧会なので、
長くおつきあいしていても
個展に来てくれない人とはだんだん疎遠になるし、
年賀状だけのおつきあいの人も
適当なところで切り上げることにしている。

それだけ「ものつくり人」にとって
個展は命がけだから、
来る来ないがおつきあいの指標になるのは
十分、理解できる。

小難しい理屈をこねて
コスモスがナンチャラと言っているけど、
やっぱり本音は「会員なら見に来て当然でしょ」
と、思っているあたり、
同年代の価値観だなと思いつつ、
趣味で陶芸をやってみたかった人にとって、
この工房は自由に自分が陶芸ができる場所と
ほどほどの会費だったからという程度の
理由なのかなという気もしてくる。

現にそこに居た50代半ばの男性会員は
「仕事しているとウィークディは無理なので、
来るとしたら土曜か日曜。
土曜は予定があったから来られなくて、
今日はなかったから来ました」と答えていたから
一般人はその程度の理解なのかなと思った。

というわけで、今日はいろいろな意味で
陶芸の先生の陶芸家としての顔が覗けて
興味深い1日だった。

いつもの体験教室の先生としてや
工房の管理人としての顔とは違い、
そんな日常や現実の合間に
作陶した器たちを観てほしい、
できれば買って手元に置いて欲しいという
作家の思いはジャンルが違えど同じだなと
痛感した。

今回の展覧会では
50点ほどの作品の内、10数点に
売約済みのシールがあった。

それを先生が良しとしているのか否かなのかは
訊かなかったけれど、
今日が最終日なので、
明日以降、手元に作品が届いた人は
先生の想いを受け取って
大切にしてくれるといいなと思う。



























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