2024年7月5日金曜日

非常勤講師の歓び

 




横浜にある某パティシエ育成専門学校の
非常勤講師をして、早20年余りが経つ。

最初は「コミュニケーションスキル」の講師として
第一印象の形成要因、
顧客満足とは何ぞや、クレーム応対、
説得と交渉、ビジネスにおける電話応対、
みたいな内容を講義していたのだが、
15年ぐらい前から、「就職対策」の講師として
授業を受け持っている。

その内容はぐっと学生たちにとって
リアルな問題「就職」についてになり、
どのように就活を進め、
内定を勝ち取るかが目的になった。

今年度の授業が4月半ばに始まり、
7月上旬の今日、
ホテルやブライダルなどの就活が
先陣を切ったのだが、
それらの業態の企業が
ちょうど就活の大詰めを迎えている。

先週の金曜日の授業の時に
最後の面接が終わって結果待ちの学生や
その日に最終面接に行くと言って
スーツ姿の学生がいたのだが、
1週間経った今日は彼らが内定をもらえたか
私は母親のような気持ちでドキドキしていた。

ホテル・ニューグランドの結果待ちをしている
S君。
ホテル・ニューオオタニの最終面接に向かった
M君。

いすれも同じクラスにいて
3時限目、11時20分からの授業だったので、
私はその少し前からクラスの前の控えの椅子に
座っていた。

いつもなら、M君が廊下に出てきて
話しかけてくるので
そうしたら「結果はどうだった?」と
訊いてみようと思っていたが、
なぜか、今日は自分の席に座っているのが
スケルトンの教室のガラスの向こうに見えている。

私は始業のチャイムと共に入っていき、
「どうだった?」とM君に声をかけると
「内定、もらえました」と
ようやく人懐こい笑顔を見せた。

本当なら、
ハイタッチ、もしくはハグでもしようかと
思っていたけど、
教室の中には他の学生もいるわけで、
外部講師なのでひとりだけに
親し気にするわけにもいかず、
「ホントに!それはおめでとう!」というのが
精一杯。

S君にいたってはなぜか教室の中にさえいない。

まずは
教壇に立ち、名簿の名前を読み上げ、点呼をとり、
宿題として出してあった
200文字で「学生時代に力を入れたこと」
いわゆる「がくちか」を1人ずつ読み上げて
もらいつつ、
M君の番になるのを待った。

読み上げる学生が決まると
私は教室の中を歩いていって、すぐそばに立ち、
書いてある文面を一緒に見ながら
その場でコメントを言ったり、
添削をする。

しばらくして、ようやくM君の番になり、
彼がすでに今回の履歴書に書いた「がくちか」を
読み上げてもらいながら、
最終面接でのやり取りを訊いてみた。

「最終面接ではどんなことを訊かれた?」と
たずねると
「日本で最後に残るケーキは何だと思うかと
訊かれたので、
『苺のショートケーキ』と答えました。
ちょうど円安で輸入の製菓材料が軒並み高騰して
いるニュースを見ていたので、
米粉や苺、牛乳なら国産のものがあるので
日本国内の材料でできるからと言いました」と
答えたので、
なかなか今の日本の経済状況にも言及した
いい答えを導き出せたのではと感心した。

彼はイマドキ顔のジャニーズ系の顔立ちだが
「こう見えて、意外と真面目なんです」と
言ったら、面接官がみんな笑って
場がなごんだので
「いけたかな」と思いました」と言うから
私も笑いながら
「ちょっと見、
チャラ男に見られちゃいそうだものね」と
返した。

ようやく心配していた大風呂敷の癖がある
M君が第一志望の内定を獲れたので
就職対策講座の講師の役目を果たし、
私も胸を撫でおろした。

これで本当に「世界一のパティシエになる」と
言い放ったM君がどんなパティシエになるのか
今後の楽しみができた。

授業時間の終わりにやってきたS君にも
「どうだった?」と声をかけると
「大丈夫でした」と涼しい顔で答えた。

他にも女子学生で
「インターコンチ」の内定をもらった子や
「セルリアンタワー」の内定をもらった子など
いくつも嬉しい報告を受け、
今日は非常勤講師冥利に尽きるいい1日になった。

専門学校は就職の抜けの良さが
学校の評価に直結するので
これで私の首も盤石だろう。

来週で夏休み前の授業は終わり、
9月のテストの返却と答え合わせまで
学生たちと会うことはないのだが、
夏休み期間内にひとりでも多くの学生が
内定を勝ち取り、新社会人の扉を開けてほしい。

猛暑の夏、
添削指導した履歴書を提出して通過したら
落ち着いて面接に臨み、
ジョークのひとつも言って場を和ませ、
大人の階段を登って行け、若者よ!

先生は応援してるから!







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