1月の木版画のミッションは
新作3点分の「彫り」を終わらせることだ。
それは先週半ばには終わったので、
「彫り」が終わると
次は「摺り」である。
浮世絵で言えば、
「絵師」「彫師」「摺り師」「版元」の
「摺り師」のパートだ。
江戸時代、
浮世絵はこれがすべて分業だったので、
絵師がまず原画を描いて、
彫り師がその原画を版木に転写し彫る。
出来あがった版木を使って
摺り師が版画として完成させる。
それを版元に届け、販売するという流れだ。
浮世絵は4段階のステップがあり、
少なくとも4人の人が介在する。
しかし、浮世絵で名前が残るのは
絵師だけである。
その工程を現代では版画家ひとりで
全部やっていることになる。
版元でさえ、
画廊を介して売れることもあるが
個展やグループ展でのお買い上げは
版画家から直接、ご購入いただくわけだから
版元役もやっていることになる。
実際に木版画を創っている身にすれば、
大変なのは「彫り」と「摺り」なのに
浮世絵では
なぜかそれは職人仕事として扱われ、
アーティストではないので無名なのだ。
現代でも工房に摺りをお願いしている場合、
絵を描いた人の名前でその作品は出るので
工房の名前や彫り師、摺り師の名前は
出てこないのが通例だ。
さて、
1月の私は「彫師」の仕事を終え、
2月は3点の作品のうち
できれば2点分、
試し摺りと本摺りを終えたいと思っている。
とはいえ、
早く「彫り」が終わったからといって
すぐに「摺り」を始められるわけではなく、
「摺り前夜」ともいえる準備がいくつかある。
まずは
版木の中のたくさんある見当が
どの部分を摺るための見当か、
トレぺ原画を版木に当てながら
マークを入れていく。
1枚の版木に複数の見当があるので
試し摺りや本摺りで
摺ってはいけないところを摺らないよう
事前に確認する必要があるのだ。
次にそれぞれの作品の色彩プランを練る。
原画は紙に描いて起こしているので
鉛筆で大体この色にしようかという色名を
原画に記入する。
試し摺りをとった際に
ピンとこなければ変更することもある。
でも、あらかじめ色彩プランがあると
摺りの途中でも
作品全体の色彩をイメージしやすいので
案外、大切な工程といえる。
今朝はその作業をしたのだが、
ふとみると
長年使ってきた鉛筆削りの
なんと古式豊かなこと!
たぶん50年以上使ってきた小さな鉛筆削り。
結婚前から使っていて、
赤いボディに
ベタベタシールが貼ってある。
このシールは香港在住時代、
幼い長女が、
私が版画の作業する傍らにいて、
箱で購入した
日本産リンゴに貼ってあったシールを
「ここに貼ってもいい?」と訊かれ
「いいよ」と答えて貼ったものだ。
ひとつ貼るのかと思ったら、
鉛筆削りの四方八方、
くまなく貼られてしまった。
でも案外きれいに貼ってあったので
そのままにして使い続けてきた。
今、シールはもはや目を凝らして見ても
字が読み取れないほどだが、
「青森」の文字がなんとか読める。
手動の鉛筆削りの後には
鉛筆をつっこむと
ジュッと音を立てて削れる電動式鉛筆削りが
登場したが、私は好きになれなかったので
一度も購入したことはない。
現代では鉛筆はどうやって削るのか?
鉛筆削りなんて文房具屋で見かけない。
もはや鉛筆は使わないのか。
いや、そんなことはないなどと
ひとり画室で思いを巡らせ
ククッと笑った。
現在もこのシールベタベタの鉛筆削りは
何の支障もなくきれいに鉛筆を削ってくれる。
そして、このシールを見る度、
今は8歳児と5歳児の母親になった長女が
「ここにシール貼ってもいい?」と
訊いてきた3歳の可愛い声が聞こえてくる。









0 件のコメント:
コメントを投稿